翔希
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「はいよっと」
「オッケー! ……うん」
そんな掘っ立て小屋に拙い看板を設置して、隣に彼女から託されたギルドフラッグをはためかせることで、ようやく新生リズベット武具店は産声をあげる。文字通り町の片隅からの再スタートに、リズはどこか懐かしげに目を細めていた。看板を作るために使った脚立を、隣の商人プレイヤーにお礼を言いながら返しておくと、改めて看板から小屋から何もかもボロボロな店を見渡した。
「こんなんでいいのか?」
「しばらくは我慢ね」
鏡すらも設置されていないが、今の俺は苦笑いする彼女と似たような表情に違いない。浮遊城と地上を行き来するためには必ず通る、この交通の要衝たる《イグドラシル・シティ》に店を構えたことは幸運だったが、果たしてこれからどうなることやら。雨風をしのげればいいとばかりの小屋に入ってみれば、屋台のように商店街側に吹きさらしがあり、この穴を使っての商売になるだろう。
「どうにかしてふいごを入れたいわね……」
「小屋が燃えそうだ」
「確かに……ね、ショウキ」
小屋の中身はまだ何も入れてないため広く感じるが、鍛冶のために必要な作業スペースに売り物を置くスペースなど、無駄遣いしてしまってはあっという間に店員である俺たちが追い出される結果となる。これから二人で考えなきゃいけないな――などと、少し嬉しそうにしながら困ったように髪を掻いていると、背後にいるリズから小さな声で呼びかけられた。
「こんなことした理由、リーベへの嫌がらせ返しっていうのもあるけど……」
「ああ」
「……不謹慎な話だけどね。あたし、《SAO》を一層から二人でクリアしていったキリトにアスナが、羨ましかったのかもしれない」
先に話そうとした時は、恥ずかしがって言わなかった、リズが俺と同様にデータを削除して一から始めた理由。最後までふてぶてしく去っていったあの踊り子への当てつけだけではないらしく、リズに背後を見せたまま黙って話を聞いていく。
「あたしも、ショウキと一緒にこのゲームをクリアしたいって、そう思っちゃったの」
「それで……」
「そ。だからこうして、二人でボロい店をこしらえてるってわけ!」
途中はいざこざがあって別れていた期間があったにせよ、キリトとアスナのように共に成長していったことが羨ましいと。そう語った彼女は朗らかにこちらの背中を叩くと、俺が突如として響き渡った背中の痛みに驚いている隙に、すぐさま俺の目の前に回り込んだ。アバターが変わろうとも変わらない、俺の目線の少し下という彼女の定位置にだ。
「そういうわけだから、クリア……ってのは分かんないから、そうね。リンダースに戻るまで、一緒に付き合ってもらうわよ!」
「……ひとまずは、な」
「ええ
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