翔希
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うがいけるため問題はない。
要するに目的地は、この《イグドラシル・シティ》に設えられた鍛治屋こと《リズベット武具店》。最後まで俺とリーベが決着をつけることを、何よりも俺のデータが消える羽目になることに反対していたリズに、どんな顔をして会えばよいのだ、ということだ。リーベとの決着をつけたことやデータの削除なども全て事後承諾でやってしまっていて、会わせる顔がないとここ数日はリズと話もしていないというのに。
「っ……」
何を言われても文句は言えない。覚悟はしてきたつもりだったが、どうしても二の足を踏んでしまう自分を奮い起たせながら、ようやくリズベット武具店へとたどり着いた。入り口の前で深呼吸を二、三度ほど繰り返してから、遂に武具店のドアノブに手をかけた――瞬間、俺はある違和感に気づいて動きを止めた。もちろん、この期に及んで躊躇したわけでは断じてなく。
「な……?」
ある違和感に気づいたからだ。先程までは緊張のあまり武具店の全体図をよく見ていなかったが、よくよく考えてみればその店には看板もなく、あの少女から託されたスリーピング・ナイツと名が刻まれた、屋根にたなびいている筈のギルドフラッグもなく。まるで空き家同然であり、そこにはリズベット武具店など存在していなかったのだ。
「何をしているんですか?」
「え、あ、いや……」
道を間違えたなどはありえない。武具店だった筈の場所の前でキョロキョロする俺は、よほど不審者だったのか見知らぬプレイヤーに話しかけられ、動揺した言葉にならない言葉が勝手に口から出てきたのみで。それでも町中にもかかわらずコートに付いたフードを目深に被った相手は、何やら察しがついたように俺の隣に立ってくると、何でもないようにリズベット武具店だった筈の空き家を指差した。
「ここにあった店、何でかいきなり辞めちゃったんですよ。プレイヤーの都合ですかねー」
「辞めた……?」
フードを被ったプレイヤーの言葉に対して俺は、呆然となってオウム返しをすることしか出来なかった。嘘だと言ってくれ、と言わんばかりに、すがるように隣にいるフードを被ったプレイヤーの方を向いてみれば。
「どういうことなんだ……リズ」
「あちゃー……早かったわね、バレるの」
「それを言ったら、どうして――」
そのフードの下から覗くピンク色の髪を見て、何の悪戯かと彼女に問いただした。どうやら本人はフードで髪の毛まで隠しているつもりだったようで、困惑したような様子で被っていたフードを外すと同時に、どうしてこのアバターで俺だって分かったんだ――と言葉を発したような口が、驚愕で開いたままとなってしまっていた。目の前で起きたことが信じられずにいて……そもそもよく考えてみれば、リズの髪型ならフードを目深に被れば
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