第四章、その2の2:小さく、一歩
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なのですか?若い内に騎士となるのが普通と思っていたのですが」
「それは生まれながらの貴族に限る。アリッサ殿がそうだな、彼女はお前より二つ若い頃に騎士となっていた。・・・当時は疑問であったが、今見ると納得できるよ。クウィスの名を見事に受け継いでいるようで、安心したわ」
そう言って小さく頷きながら口元を緩める。足元に置いていた花瓶のような形をした酒瓶を持ち上げ、瓶の口を塞いでいたグラスを取って、それに赤い酒を注いでいく。葡萄のきつい香りである。半分辺りで注ぎを止めて、赤の湖面を揺らす。
「私は元は一介の商人でな。商売が上手くいかなくてむしゃくしゃしていた頃に財務官の仕事を手伝う機会に恵まれた。以降数字を只管に片付けていたら、何時の間にか騎士となっていた。不思議で仕様がない」
「武勲だけではなく、内勤でも評価してくれるって事ですかね」
「そう願いたい。兎も角、その能力を変われて地方に赴任し、今では街を一つ治めるに至っている。ま、中々順風満帆な人生だよ・・・ほれ、最初の一杯だ」
「あ、あの、自分は下戸で・・・」
「そう邪険にせんでくれ。先行き短い老人の頼みだ、な?」
「・・・いただきます」
慧卓はグラスの取っ手をおずおずと掴むと、青汁を啜るかのように恐る恐る口に含む。むわっと咥内で酒の香りが広がって噎せ掛けるが、何とかそれを耐えて飲み込んだ。だが妙に張り詰めた顔は隠せず、ワーグナが微苦笑を浮かべてグラスの返品を受け付けた。
くいっと手馴れた所作で酒を煽りながら、ワーグナーは続ける。
「この草原は私の思い出が詰まっている。私が初めて商人を志したのも・・・愛しき女性に会ったのも、此処であった」
「ははは・・・。すみません、もう少し飲んでも?」
「おお、構わんぞ、ほれ。・・・私の原点なんだよ、此処は。良い場所だ!」
「そうですよね、良い場所です」
話半分に聞きながら、グラスに残った強い酒をちびちびと飲む慧卓。セラムに来て初日は一気飲みで死に掛けたが今宵は大丈夫だ。酒を飲む前には腹は鹿肉で埋まっている。
「時に、ケイタク殿。これから北へ向かうと、会った時に聞いたのだが?」
「その通りです、三日後にはクウィス男爵の領内に入る予定です。・・・もしかして、俺達を見掛ける前から、既に商人から話を伺っておりましたか?」
「うむ。君のお陰で随分と儲からせてもらっているぞ。有難う」
「・・・聞きたくないけど、何て文句が流行っているんですか?」
「沢山あるから纏めてみようか。『異界の若き騎士がセラムに降り立って初めて訪れた街、それがロプスマ。王都よりも先に来た街。衣服からまで武具までを、全て此処で』」
「・・・逞しいですねぇ、本当に」
半分以上の本当に僅かな嘘が混じった商売文句である。驚くやら呆れるやらでつい
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