絶対将棋
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夕方5時だと言うのに陽射しがキツい。
「あっつーい」
艶のある黒髪をポニーテールにまとめ、目は凛々しく知性に溢れ鼻は高く鼻筋が通る、唇は上下ともに厚い、背は164センチでスタイルは良い、背筋がピンと張る凜とした美女。
「こっちだ」
目つきの悪い男が手招きする。
篠原水樹(しのはら みずき)22才、将棋の真剣師だ、賭け将棋で生計を立てる者のことだ。
案内された場所はビルの地下1階、ヤクザ者と思われる輩がたむろしていた。
「お嬢ちゃんが俺の相手か……」
両腕を組んで待ち構える中年の男のほほには大きな切り傷があった。
「兄貴こりゃチョロいですぜ」
子分らしき男がしゃべる。
「篠原です」
ムッとした風に名乗る。
「俺は中川だ」
組んだ両腕を解き男が名乗る。
「10分切れ負け100万だ、分かってると思うが」
「50万持ってます、残りは私の体でどうでしょう」
「ほおう……余程の自身だな……」
中川は舐め回すように水樹を値踏みする。
「良いだろう、俺が勝ったら50万は要らない、あんたの体だけでいい」
「それならそれで……」
言いながら席に着く、テーブルには平たい将棋盤が置いてある、すでに駒が並べられている。
「コロコロ」
男が歩を4枚振って転がす、歩が3枚、“と“が一枚。
「悪いな、俺の先手だ」
中川は飛車先の歩を突く、居飛車だ。
水樹は軽やかに角道を開ける。
「美しいねぇ、見とれちまうぜ」
続けて飛車先の歩を突く、中川は急戦調だ、水樹が角で受ける。
「将棋はいい、盤の上で会話ができるからな」
中川は居飛車、水樹は涼やかに四間に振る。
ヤクザが周りを取り囲む、局面は終盤になっていた、中川は笑みを浮かべながら舌舐めずりをしている、一方の水樹は涼しげだ。
「俺には詰みがない、これで終わりだよ」
そう言って水樹玉に必死をかける。
「詰みがない?もう斬られているわよ」
鮮やかな21手詰みだった
「バ……バカな……」
「感想戦はしないわ」
水樹は100万円を受け取りビルを後にする。
将棋の駒に表と裏があるように将棋界にも表と裏がある。
表の世界は奨励会を勝ち抜いた正式な将棋のプロ棋士達の事である、裏の世界はプロ以外の賭け将棋を生業とする者たちの事だ。
水樹はプロ棋士には興味が無かった、気楽な世界が好きなのだ。
水樹はお金には不自由していない、賭け将棋で負け知らずだからだ。
得意戦法は角道を止めるタイプの四間飛車、プロでは廃れてしまった感のある戦法である、しかしアマチュア間での人気はまだまだ根強い。
自宅のマンションのベットで寝転びながら詰め将棋をやる、スラスラと解く
「ピンポーン」
チャイムが鳴る
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