暁 〜小説投稿サイト〜
絶対将棋
絶対将棋
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に最善手を指したわ」

 大場がトイレでカンニングをしたと言っているのだ、水樹は盤面を静かに見ながら聞いている。
「罠にはめられてAVデビューよ!その後は地獄だったわ」
 今度は水樹を見ながら語る。

「私はこの戦いに勝つわ!そして貴女を地獄へ案内する、拷問は私がしてあげる」
 牧村は角を持ち自分の右眉付近まで上げながら、そして
「パッチーン」
 駒が割れるのではないかと思うくらいに強く叩き打つ。

 その角は1番端の牧村の歩の上に打たれた、端角だ、余程の自信がなければ打てない個所だ。
 水樹は端角を冷静に見つめ
「端角……“はじをかくわよ“」
 牧村を見る。

 局面が進む、やがてその牧村の放った端角が存在感を増して来る、恥をかくどころか名角であった。
 水樹はそのいまいましい角を見ながら上唇と下唇を口に巻き込む、美しい鼻が縦に伸びる、困っているようだ。

 時間が過ぎていく、牧村は右手人差し指を軽く曲げ鼻に近付けてクックッと笑う。
「ペチッ」
 弱々しく水樹が角を殺しに銀を打つ。
 間髪入れずに
「パッチーン」
 牧村の指がしなる、桂馬のタダ捨てだ。

「取ったら……」
 大盤を見ながら聞き手が聞く
「即詰みですね、取らなくても……」
 解説を受けて聞き手が
 「一手一手ですか……」
 答える。

 クーは画面を見ながら安堵の表情を浮かべている。
 (AV監督は誰に頼むかな、シネか鈴木か)
 どちらも会社が誇る鬼才の監督だ。

 水樹は桂馬を取らずに玉の早逃げをする、しかしやがて追いつめられて……
「パッチーン」
「ようこそ地獄へ」
 金で水樹玉を縛る、必死だ。

 牧村玉に詰みはなく水樹玉が必死だ、勝負ありである。
 しかし水樹は投了の態度を示さず、ただ盤面を見つめていた、そして目を閉じる、眉間には苦悶のシワが寄る、上下唇を口に入れ鼻が縦に伸ばされる、後は水樹が投了を告げるだけである。

 「ペチッ」
 ただ手数を稼ぐだけの王手を歩でかける。
 牧村はフンッと鼻を少し鳴らしそれを玉で取る、詰みは無い、何度も確認済みだ。

 「ただ手数を稼ぐだけですね……棋譜が残りますからね、将棋指しのプライドがあるなら……して欲しくないんですけどね」
 大盤の解説者が手厳しいコメントを述べる。
「ペチッ」
「パチッ」
「ペチッ」
「パチッ」

 細い細い王手を水樹が続ける、やがて……
「うんっ?」
 驚いたように牧村が水樹をにらむ。
 詰みは無いはずだった、しかしそれは牧村が見抜けなかっただけだったようだ。

 クーは画面を見ながら牧村の異変に気付く。
(おいおい頼むよ)
 クーはこの博打に負けるわけにはいかない、負ければ自分の首が飛ぶだろう。
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