暁 〜小説投稿サイト〜
遊戯王GX〜鉄砲水の四方山話〜
ターン82 邪魔の化身とラスト・『D』(魔)
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 ……なるほど、このタイミングでか。確かに今ここで八百長の指示を出せば、今の逆転で勝負の流れに乗った万丈目がそのまま押し切れた風に見えなくもないだろう。だけど、その指示が出たのなら打ち合わせ通り僕の出番だ。観客席の高さは一番低い場所で精々10メートルもないぐらい、余裕で飛び降りられる。

『マスター、その前にあれを見てみるといい』
「へ?」

 手すりに手をかけて身を乗り出そうとしたところで、チャクチャルさんが何かを見つけたようだ。あれ、とやらの指す方に目を向けると、ついさっき放送前のカウントダウンをしていたスタッフがじわじわと万丈目陣営に近づいていくところだった。
 それにしてもあの人、確かにそこにいるのになぜか視線が滑るというか、眼には見えているのに存在感が極端に感じられないというか、とにかくなにかがおかしい。僕だって、チャクチャルさんが教えてくれなければあの人がそこにいることに気づきもしなかっただろう。

『ただの人間に、少なくともテレビ屋にできる動きではないな。足音どころか気配まで完璧に断っている、相当の修練を積まなければ無理な芸当だ』
「まさか……」
『まあ、そういうことだろうな。何を考えているんだか』

 話し込んでいるうちにスタッフ……いや、「彼女」はマイクの真後ろまで回り込み、ここで初めて僕の視線に気が付いたかのように小さく手を振ってきた。だから僕も小さく頷いて息を吸い、きっぱりと叫ぶ。

「明菜さん、今です!やっちゃってください!」
「はーい清明ちゃーん、まっかせといてー」

 そこからの行動は、とにかく素早いの一言だった。それまで着ていた撮影スタッフの衣装を脱ぎ捨てて私服姿に戻った明菜さんの両手にはずっと隠し持っていたらしい丈夫そうなロープが握られており、それを使って恐らく自分に何が起きたのか理解する暇もなかったであろうマイクをすぐさま後ろ手に縛りあげる。「姉上えぇぇ!?」とかいう叫び声が客席のどこかで小さく聞こえた気もするが、たぶん気のせいだ。きっと気のせいだ。絶対、何があっても、それは気のせいだ。
 ……いいじゃない、今ぐらい夢見たって。あ、駄目だ。葵ちゃんこっち来た。

「い、一体何の騒ぎだこれは!?」
「ごめんねおじさん、これもお仕事だからね。清明ちゃん、あったよー!」

 ものすごい剣幕で僕の場所に詰めかけてくる葵ちゃんを尻目に、完全にマイクの動きを封じた明菜さんがサッと手を振る。ただそれだけで、もうその中には手品師のように1枚のデュエルモンスターズのカードが握られていた。

「ありがとうございます、それじゃあ……よっと、失礼」

 捕まる前にさっさと逃げようと手すりを乗り越えて、ちょうどその真下を走っていた警備員の上に飛び降りる。多分何が起きたかもわからなかったであろう彼に
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