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歌集「春雪花」
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 還らざる

  時に時雨し

   小夜更けて

 秋虫の音さえ

   聞こえざりける



 逆巻くことのない時間…もう彼との時は消え去り、ささやかな思い出は過去の遺物…。

 寂しさに心は乱れ…真夜中の時雨し空に溜め息をつく…。

 虫も鳴かない肌寒い闇夜…雨音だけが響き…考えなくてよいことまで考えてしまう…。


 寂しい…。



 戸を打ちし

  いたむ風さゑ

   侘しける

 想いて戸口に

    立つ影もなく



 激しい風が戸を叩く…そんな風さえ侘しく思い、彼はどうしているかなどと…無駄なことを考えてしまう…。

 何度も何度も…私は彼に必要なものではないと言い聞かせ…諦めようとしても…心はそれに抗おうと藻掻く…。

 どんなに恋しかろうと…彼は玄関の扉を叩く訳もなく…


 今は静かに…想いに沈む…。




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