プロローグ
[1/2]
前書き [1]次 最後 [2]次話
「……ぅぅわあああぁぁあぁあ!!?」
大きな悲鳴が轟いた。
辺りを包み込む機械音とさざ波の二重奏に、轟くような男の悲鳴が混じる。
次に水柱を立てて激しい着水音。
それが三度続けて響いた。
陽光を浴びる綺麗な水しぶきは煌めきながら舞い散った。
そしてすぐに、音は機械音とさざ波のリズムに押し流される。
水平線までコバルトブルーの海が広がる光景に、黒い煙を吐き出す大きな貨物船が停泊していた。
ついさっきグアムの港に着いたばかりのその船には、海に揉まれた屈強な男達が荷出し作業に精を出している。
物資が積まれたコンテナがクレーンに吊られて次々と貨物船から運び出されていた。
だが…貨物船から降ろされるのは物資だけではなかった。
三人の悲鳴と悲鳴と同時に、甲鈑から船乗りの男達が、蹴落されて海の藻屑となったのだ。
貨物船というものは大きい。 大量の物資を運ぶために比例するサイズは巨大化するため、甲鈑と水面との距離は広がる。
何十メートルものの高さから落とされたその男らは死にはしなかったが、一定の高さを超えたダイビングは物理的にダメージを与える。
これがちゃんとしたダイビングであればフォームによって切り裂くように着水するものだが、蹴落されていてはそんな事が出来るわけもない。
三人の土左衛門もどきが浮かぶ中、それを見下すように甲鈑に彼女はいた。
「全く…下衆だこと。 寝込みを襲うとか、とんだ安眠妨害よ!」
ふんっ、と鼻息を鳴らして憤慨するのは―――天信睦月。
日本人らしからぬ空のような蒼い色髪を束ねたポニーテール。
欧米生まれの母譲りの海色に似た深青の瞳と、その上で斜に構えた強気を表す柳眉。
ミニのデニムスカートと、シャツの上に長袖のジャケットを身に纏った出で立ち。
年齢よりも若干若く映る童顔は、その感情を隠すことなく表に出している。
怒りのままに荒くれの船乗り達を素手で叩きのめした彼女は、横から吹いてくる潮風にポニーテールを靡(なび) かせた。
蹴落された男達には一瞥すらせずに、天信睦月は周りの船員達を掻き分けて貨物船をあとにした。
―――。
「最悪だわ」
下船してもまだ収まらない怒りが口に出て嘆いた。
「ほかにルートがなかったとはいえ、貨物船はないわー…それもタコ部屋とか最悪だわ」
臭いはひどく、汗を充満させる野獣が大勢いる所にいたから、それは不機嫌なのも当然だった。
そこを我慢して部屋の隅で寝ていたのに、ボディタッチして安眠妨害する不届き者がいたら当然睦月はキレる。
不規則に眠りを繰り返す天信睦月にとって、夢なき睡眠は貴重なものだ。 それを妨害する事は
前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ