88二人の悪夢
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死に祈った。
誰に頼まれた訳でもなく、保護者を失う恐れからでも無く、ただ一人、自分を受け入れてくれた少女の命が助かるよう、何を引き換えにしてでも、自らの命を差し出してでも救いたいと、心から願った。
「佐祐理……」
いつか母が事切れたバス停のように、儀式のための雪の動物はいなかったが、大きく成長して自分の中に帰って来た魔物達は自分と同調していた。
手が凍るような苦行も無かったが、長年に渡る戦いと苦痛は、それらを遥かに上回っていた。
『佐祐理っ! 帰って来てっ!!』
祐一の力も同調し、舞の叫びと共に辺りが光に包まれた。そこでまるでフィルムが逆回転するように、佐祐理の体の破損は元に戻って行った。
『祐一が欲しいならあげるっ、私も一緒にいられるならそれでいいっ!』
頑なに拒んでいた、祐一の譲渡も認める。
『私の命なんかいらないっ、佐祐理さえっ、佐祐理さえ生きていてくれたら、何もいらないっ!!』
香里や栞、真琴や美汐にも憑依していた時のように、佐祐理の命を繋ぐためなら、自分の全ての力を渡しても良いと願った。
「……ゴホッ」
やがて、舞の願いが届いたのか、佐祐理の呼吸が戻った。
「佐祐理っ!!」
「佐祐理さんっ!」
『愚か者め、私まで蘇らせてどうしようと言うのだ… 私はまた誰かの体に取り憑いて、お前を襲うぞ……』
最初の一声は魔物の物だったが、それでも安心して笑って答える。
「…そうか また来るといい、何度来ても倒してやる」
最後に残った舞の魔物、「胴体」と和解させる事はできなかったが、その回復力は生きていた。
瀕死の状態からでも、5体の力が全て揃った時、佐祐理の傷を内側からも修復していた。
「だが… この体は居心地が良い… 暫くここで休ませて貰おう……」
そう言うと、佐祐理に憑依していた魔物は、儚い命を繋ぎ止めるために、その体の奥底に戻って行った。
「そうか、佐祐理を頼む……」
魔物と僅かに言葉を交わし、親友を託した舞。
魔物の方も真摯な心を受け取ったのか、本来ならとっくに寿命を迎えている少女の体に残り、一弥を産むまで祐一に抱かれ、力の補給を受けようと考えていた。
「あれ…? 舞、祐一さん? 私、どうしたんですか?」
ついに意識を取り戻し、二人に声を掛けた佐祐理。真っ白だった顔には赤みがさし、傷口には僅かな血すら付いていなかった。
「佐祐理っ!」
泣きながら親友の体をしっかりと抱き締め、その温もりと息使い、心臓の鼓動を確かめる。
「どうしたの? 舞、ここはどこ? あっ…」
そこで舞に唇を奪われ、頭の中がホワイトアウトする。
「だ… だめよ、舞、こんな街中で、それに私達、女同士なのよ…」
全く嫌な表情を見せず、蕩けるような顔で余韻に浸りながら、舞の背中を撫でる。
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