アインクラッド 後編
鼠の矜持、友の道
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と最後までを聞いた。そして、確信した。マサキ君は、アルゴさんのためにその契約を考えたのだ。
マサキ君自身がそれを自覚しているかは分からない。ひょっとしたら、頭の中では「この機会に都合よくこいつを使ってやろう」とか、「それだけの責任があるのだから、この程度は当たり前だ」とか考えているのかもしれないけれど、心は違う。どんなに誤魔化しても、目の前で苦しんでいる人を見捨てておけない人なんだって、わたしは信じてる。
「……次の層が二十五層だったことも、マー坊にはプラスに働いタ」
一瞬漏れたアルゴさんの感情は、次の台詞ではすっかり修繕されていた。その気丈さは、正直に凄いと思う。
「強力なボスの存在と、《軍》の壊滅。最前線の話題はそっちに移っちまっテ、マー坊のことは置いてけぼりサ。後に残ったのは、《穹色の風》なんて二つ名くらいカ……。アレも、実はラフコフが広めたんダ。トー坊が殺されて、怒ったマー坊は《風刀》でラフコフを斬りまくっタ。プレイヤーが死ぬと、水色のエフェクトが出るだロ? 高速で走り回りながらそのエフェクトをばら撒く様子が、空色に色づいた風に見えた。だから、《穹色の風》」
わたしは去年の十二月、初めてマサキ君と会った時のことを思い出した。そういえば、わたしが最初に二つ名でマサキ君を呼んだ時、彼は少し嫌そうに顔をしかめていたっけ……。自分が人を殺して付けられた名を、何の悪気も無く呼ばれることの辛さをわたしは知らない。けれど、その度に自分の行いを、そして殺された親友を嫌が応にも想起させられるというのは、わたしの想像を遥かに超える苦しみだろうと思った。それだって、月並みな台詞でしかないのは自分でも分かっているけれど。ただ胸を締め付けられるような想いと、ラフィン・コフィンへの怒り、そして知らなかったとは言えその名でマサキ君を呼んでしまったこと、大好きな人を少なからず傷つけてしまった自分への口惜しさが喉の奥で渦巻いていた。
「……あー! 喋った喋っタ! 独り言はおしまい。エーちゃん、もう一度言っとくヨ。マー坊の事情は簡単に深入りできるようなモンじゃないし、エーちゃんが気にしなきゃいけないことでもなイ。あんな奴スッパリ忘れて、他にイイ男探した方がよっぽどいいゾ?」
「いいえ」
両腕を頭上に伸ばし、へらへらと薄い笑みを貼り付けたアルゴさんの目を睨みつけるようにしてきっぱりと否定する。胸の前で手をぎゅっと握ったら、自分でも不思議なくらい、温かい力が体の底から湧き上がって来る。
「わたしは……何も知りませんでした。マサキ君のこと、トウマさんのこと、スキルのこと、二つ名のこと……全部、知りませんでした。マサキ君の優しさに触れて、助けられて、勝手に好きになって、舞い上がって、ただその気持ちを押し付けていただけなんです。マサキ君にそん
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