アインクラッド 後編
鼠の矜持、友の道
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照明の赤みがかった白色に色づいたどろりと粘つく空気が身体中にまとわりついている。溜息すらつけない沈んだ雰囲気の中で、わたしはひたすら先ほどのマサキ君を思い返していた。
「……ったくマサキの野郎ォ、せっかくアスナさんとエミちゃんがあんなに頑張ったって言うのに、何なんだあの言い草は!」
沈黙に耐えかねたクラインさんがテーブルを叩くと、その振動でグラスのジンジャーエールがさざ波を立てた。出されてからもう二十分は手もつけていないけれど、この世界ではグラスに結露が付くことはない。
「うちの設備を壊すなよ」
エギルさんが嗜める。その声に安堵の色が混じっていたのは、彼もまた、この空気に辟易していたということの表れだろう。
マサキ君がどこかへ消えた後、わたしたちは気まずさから誰も帰ると言い出せず、ぎくしゃくした流れのままエギルさんの店に立ち寄っていた。普段は猥雑としているこの街も、もうすぐ空が白み始めるこの時間帯はしんと静まり返っていて、それが重たい雰囲気を更に強く浮き立たせている。
「本当に……何でこんなことに……」
ぽつりと呟く。それは何度も自問して、一向に答えの見つからない問いだった。
「エミは悪くないわ。全部アイツが悪いのよ、アイツが」
「ううん、きっと何かあるの。マサキ君が怒る何かが……」
丸テーブルの左隣に座ったリズがフォローしてくれたけれど、わたしは首を振って答える。確かにマサキ君は一見無愛想だし、人付き合いを露骨に避けたがったり、相手に対して否定的な物言いをしたりすることがある。けれど、決して理不尽に怒りをぶつけるような人ではなかったし、何よりわたしは知っている。わたしの凍りついた心を溶かしてくれた、太陽みたいな暖かい瞳を。
「わたしは、彼のことはよく知らないけれど……それでも、三日間一緒に過ごして、あんな風に怒りを爆発させるような人だとは思えなかったわ。エミの言うとおり、何か他に理由があるんじゃないかしら」
「でも、その何かって、一体何なんでしょう……」
アスナもわたしの言葉に頷いてくれたけれど、続くシリカちゃんの質問には答えることが出来なかった。そうしてまた沈黙が流れ出したところで、今まで難しい顔で腕を組んでいたキリト君が小さく呟いた。
「……やっぱり、まだあのことを気にしてるのかもな」
「何か知ってるの!?」
降って湧いたように思えた一縷の望みに縋ってキリト君に食らいつくと、彼はその中世的な顔を僅かに仰け反らせ、ぎこちない動作で頷いた。
「あ、ああ。俺とクライン、後エギルは、多分、一応」
「……やっぱ、トウマの一件か」
「……トウマ?」
恐らくはプレイヤーネームなのだろうけれど、初めて聞く名前だった。復唱すると、クラインさんが居心地悪そ
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