第14話 今ある幸せ
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いるようだった。
ゆでだこのように顔を真っ赤にして、飛び去って行くバゼラートを呆然と見送ったあの日から、何日も経つというのに――あの時の衝撃は、未だに冷めない。
(私が、リュウジと……リュ、リュウジと……)
いつもの日常を共に過ごす彼は、いつもと変わらない笑顔を自分に向けている。そんな普段通りの彼と視線が交わるだけで、恥ずかしさで頭が爆発しそうになった。
そう遠くない日に、自分と彼が――そういう関係になる。どうしても、そんな可能性を意識してしまうようになったからだ。
(でも、リュウジは……私のことはどう思ってるのかな。私のことなんて、年下の妹みたいにしか思ってないんじゃ……)
だが、不安もあった。向こうが、異性としての繋がりを意識しているようには見えないからだ。
優しげな笑みだけを向ける、弱さを見せてくれない彼の背に、フィリダは愛おしさを感じると共に――微かな寂しさも覚えるようになっていた。
その時。
「フィリダさん」
「ひゃあい!?」
不意に当のリュウジに声を掛けられ、歓喜と驚愕の声を上げてしまった。おかしな反応をしてしまったことで、姫君の顔が真っ赤になる。
「アリッサさんや他の子供達に、クリスマスプレゼントを……と思ったのですが、女の子が喜ぶものがなかなか思いつかないものでして。お力添えを頂けませんか?」
そんな彼女に向けられたのは、差し伸べられた手と――少しだけ困ったような笑顔。普段と僅かに違う、リュウジの表情に――フィリダの面持ちも変わる。
「……う、うん。私で、よかったら……」
その手に自分の手を重ね、伝わる温もりを肌で感じながら――フィリダははにかむように笑い、彼の傍らを歩く。
まるで新婚夫婦のようなその姿を、後ろの2人がニヤニヤと見送っていることにも気付かずに。
(私とリュウジがどうなるかなんて……まだ、わからないけど。今はただ、こうして2人で……)
そうしてリュウジの手を握り、幸せな笑みを浮かべて――フィリダは、愛する男の横顔を見遣る。
(お母様……いつの日か、私も……きっと……)
どこまでも相変わらずな、彼の優しげな面持ちを見つめる少女は――敢えて、先のことは考えず。今ある幸せだけを、噛み締めるのだった。
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