第7話 君が笑ってくれるなら
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ことじゃなくてっ! あれは恥ずかしすぎて着れないってだけでっ!」
自分を放置して親友のウェイトレスと口論を初めるフィリダを、微笑ましげに見つめた後。リュウジは無言のままカプチーノを手に、窓から外の景色を見遣る。
その視線の先には、復興が進んでいる時計台――ビッグベンの姿があった。視線を落とすと道ゆく人々の中に、アリッサと呼ばれていた少女が母と笑い合う姿も伺える。
(……「伝説の男」。あなたのような強さがあれば……オレでも、彼女の母を守れたのだろうか)
その姿に、在ったであろうフィリダの幸せを重ね、リュウジは人知れず思案する。微かに痛む右目の傷跡に、そっと指先を当てて。
ロンドン基地に保管されている、この大戦初期の戦死者名簿の中から――フィリダの母の名を、リュウジは見つけていた。
(イギリス支部から、新兵の護衛を要請された時。オレは、極東支部の仲間達が日本で戦っている中であっても――断ることができなかった。現世を離れてなお、我が子を愛する母君の御霊が、オレをこの街へ惹きつけたのかも知れんな……)
母の死に苦しみながら、孤独な戦いに身を沈めようとしていた少女。親友と語らい、明るく振る舞う彼女の、胸の内に染み込んだ悲しみ。
その悲しみから救えなかった罪を贖うには――自分は、どうすべきなのか。
「……ねぇ。アスカさんのことほっといていいわけ? ダメねー、フィリダ。大事なカレを放置だなんて」
「――あっ!? ご、ごめんなさいリュウジ! ……もう! コリーンがおかしなことばかり言うからっ!」
「ごっめーん。だって、アスカさんのことでデレデレしたりプンプンしたりするフィリダが可愛かったんだもん」
「コリーンっ!」
その思考を、フィリダとコリーンの喧騒が遮断する。
耳まで真っ赤にして、ドレスを纏う純白の姫君――らしからぬ挙動で両手を振り回すフィリダ。そんな彼女を、コリーンもリュウジも微笑ましげに見つめていた。
「……オイ」
その時。OD色の革ジャンとジーパンという格好の青年が、低くくぐもった声色で声を掛け、リュウジ達のテーブルの前に立った。
青年、もといアーマンド・マルスレイは――バツの悪そうな表情で、リュウジ達を交互に見遣っている。
「おや、マルスレイ隊員もこちらにいらしたのですか。お会いするのは5日前の市街地戦以来ですが、お元気そうで何よりです」
「アーマンドでいい、堅苦しくてかなわねぇ。……まぁ、お前も元気そうで……何よりなんじゃねーの」
にこやかに声を掛けるリュウジに対し、アーマンドはうまく視線を合わせられずにいた。そんな彼を前に、コリーンが眉を吊り上げる。
「アーマンド! あんたまたフィリダを苛めるつもりでしょ! 今度という
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