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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 48
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ーラン王子が村に居なければ、計画は全部徒労に終わっていた。
 そんな際どい状況下でマーシャルが回りくどい自己紹介を残していったのは、十中八九、ミートリッテを貴族にさせたくなかったハウィスの為だろう。
 「ハウィスの立場を考えると、答えそのものは言えなかった。でも、私が船上での演技を見聞きしてたのは知ってる。だから、敢えて私に接触したんだと思う。「ほら、この顔をよく見て。この声をしっかり聴いて。貴女はこの姿にそっくりな女性を、この声を何処で聴いたのかを、ちゃんと知ってる筈よ。お願い、貴女を取り巻くものに早く気付いて。姉さんを悲しませないで」って。そう伝えたかったんだよ、マーシャルさんは」
 何も見てない・気付いてない。あれはやはり、アーレストとの恋愛話ではなかった。
 正しくシャムロックへの忠告であり、ミートリッテへの懇願でもあったのだ。
 アーレストは、含みを持たせて誤魔化すことで、機密漏洩一歩手前なマーシャルを庇っていた。
 「優しいね。ハウィスも、ハウィスの周りに居るみんなも。すっごく優しい」
 「……ミートリッテ?」
 女性にしては硬い両手のひらに顔を埋め、口付ける。
 ミントの香りがするこの手は、人殺しの手。
 だけど、冷たくはない。
 優しい心を持った人の、温かな手だ。
 「この手が、マーシャルさんと私を抱き締めてくれたの。此処に居て良いよって。何も持たない私達に、命懸けで温もりと居場所をくれた。マーシャルさんも、居場所をくれたハウィスの為に、身を挺して私を護ってくれた。だからね。今度は私が、何も持たない誰かに、この温かさを全力で分けてあげる番」
 左右交互に頬擦りして顔を上げ、にっこり笑う。
 「子・ミートリッテ=ブラン=リアメルティは、母・ハウィス=アジュール=リアメルティに誓う。私は後のアリア信仰アルスエルナ教会の大司教という立場を利用……もとい。活用して、この世界の意識を変革する!」
 人は誰しもちっぽけな存在で、生命全ては救えない。
 けど、近くに居る誰かの手を握る努力くらいなら、誰にだってできるんだ。
 そう。誰にだって。
 「自分以外の凍えている誰かを、無条件で抱き締めてあげる。抱き締められた誰かが、また別の誰かに温もりを分けてあげる。そうやって、最初に抱き締めてくれた人へもう一度温もりが巡るまで、みんなが・みんなで・支え合うの。手を貸す事を恥じたり怖がったりせず、誰かに与えられた事を素直に感謝し、受け入れて、次へと繋げる。そうやって、嬉しいや楽しいや温かいをみんなで共有するの。誰だって自分の生活で手一杯だもん。簡単じゃないってコトは百も承知だよ? いきなり「助けてあげようよ!」なんて言ったって、「そんな余裕は無い!」で一刀両断されちゃうのは分かり切ってる。けど、みんながみんな誰かの窮状を見て見ぬ振
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