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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 48
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……怖かっただろうな、みんな。目の前で人間が同時に二人も死にかけるなんて。しかも私は、何故・どの程度の怪我で心臓を止めちゃうのか、ハッキリしてなかった。いつ・何が切っ掛けで倒れるか判らない人間なんか面倒臭いし、精神的な負担を思えばあまり関わりたくない筈。それでも、私を避けたりはしなかった。みんな、優しくしてくれてたんだ。私が感じてたよりも、ずっと)
 「暴論……。そうね。エルーラン殿下の遣り方は、真相を知れば知るほど暴力的に大雑把なのよ。なのに、導き出される結論はいつも「最善」だった。今回の件もそう。アルスエルナを快く思わないバーデル軍と暗殺組織を相手に、いきなり始まってあっという間に終わった程度の規模で片付けてしまった。下手をすればアルスエルナ全土を巻き込む大騒動になっていたかも知れないのに、よ?」
 予め結末(いま)を知ってたんじゃないかと疑いたくなる伏線の張り方は、人間業とは思えない豪快さと精密さで。怒りに身を任せたハウィスが全滅させようとしていた暗殺者集団でさえ、全員は殺さなかった。殺させなかった。
 総てはハウィス母子を護る為。延いてはアルスエルナ王国の防衛力を維持する為に。
 「私が知る限り、殿下が判断を間違えた例は無い。彼はいつでも正しかった。……でもね。七年以上殿下の庇護下に置かれていても、一つだけ、腑に落ちないの。「力無い者達はどうすれば良いのか」って疑問に、私は今でも答えを出せないでいる。それだけはどうしても、殿下に教わった方法が正しいとは思えなかったから。ずっとずっと考えて……だけど、全然判らなかった。だからって、貴女に総てを託すのは卑怯……なのでしょうけど……」
 力有る者達にも総てを救えるほどの力は無く。
 されど、彼らと彼らに護られた者達は、社会の恩恵を受けられない者達が生きようと必死で足掻けば足掻くほど、秩序を乱すなと容赦無く責め立てる。
 差別的で冷たく、閉鎖的で残酷で、何処までも理不尽に穢された世界。
 それでも生きたいと願う者達は、どうすれば良いのか。何処へ向かえば良いのか。
 できるなら、その答えを見付けて、進むべき道を示して欲しい。
 「……んー、と……」
 少しの沈黙を挿んだ後、話せる事は全部話したと深呼吸を数回繰り返すハウィスに
 「もう、出てるじゃない。ハウィスの答え」
 きょとんとした顔を傾ける。
 「え?」
 「そりゃあね。自分から神父様の思うつぼに嵌るのはすっっっごく癪なんだけどね。両手、見せて」
 「手?」
 「うん。手のひらね」
 意図が理解できず戸惑うハウィスの両手首を持って引き寄せ、右と左を見比べてみる。
 「あぁー……こうやってちゃんと見てれば、水仕事だけにしては荒れ方とか硬さが不自然だってハッキリ判るのになぁ……。このたこなんて、何度も直に触ってた筈でしょ?
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