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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 48
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影を追走……そうやって、南方領各地で物が消える、消えないようにする、を繰り返せば、当然異常事態に気付く者も徐々に増えていく。
 一般民の間で「古い道具がいつの間にか新品に変わっていた」「生産者に入る売上金が微妙に増えている」と噂が立てば、貴族の所有品消失事件と話が混ざり合い、義賊が活動しているらしいと結論付けられるまで、そう長い時間は掛からなかった。
 一件や二件程度であれば盗まれた貴族を責めるだけで終われるが、五件も六件も立て続けに奪い取られた挙句自分が預かる領地にまで現れたとなれば、最早他人事では済まされない。そして、自分以外にも被害を被った者が居るのなら、自分だけが能力不足を責められる道理も無い。
 被害を受けた南方領貴族達は秘密裡に会談を重ね、怪盗の存在を一斉に公表した。
 それが通称「山猫」だ。
 彼らは、自分達が大っぴらに恐れることで「山猫」の能力を非常に高いものであると喧伝した。「自分達は悪くない。相手の手口が想定よりずっと巧妙だっただけだ」の構えに他ならないが、シャムロック本人も盗みを繰り返す力量を見せつけていたので、強ちただの言い訳とも言えず。
 結果、被害に遭ってない貴族達にまで過剰な警戒感を植え付けてしまう。
 かつてのように盗人の好きにはさせまいと考える貴族達にとって、「自分の采配で」怪盗(民心を乱す存在)を取り押さえる事実は何よりも重要で。その為の戦力の出所には然程拘れなかった。
 アルスエルナに戸籍を持たない護衛兵を雇う南方領貴族の増加は、運営費全般の微妙な変動から直ぐ様王室の耳にも届く。南方領に領地を預かるエルーラン王子も、義賊の再出現を感じ取った時点で、被害の実態調査とハウィス・アルフィン両名の監視強化をネアウィック村周辺の騎士達に命じていた。
 不幸だったのは、外出時のミートリッテに付けていた監視者が一人だけで、シャムロックの活動開始時刻がブルーローズの活動開始時刻よりもずっと遅く、朝に近かった事。しっかり鍛えた大人でも眠気に襲われる時間帯……昼間に商いを展開して深夜に移動する行商人ならともかく、幼い子供が一人で動き回ったりはしないだろう、という侮りと偏見、貴族の自尊心による被害の公表遅れ等々が、シャムロックの正体をエルーラン王子の目からも遠ざけてしまっていた。
 「貴女が心臓を止めて倒れた時もそう。通常なら、帰り着く頃には監視者から鳥を使った連絡が届く筈だった。いいえ、届いてはいたのよ。でも、貴女が居ない隙にと中央広場で対武装勢力を仮定した実地訓練をしている最中、夢中で剣を振るっていた私を含むみんなが、上空を旋回し続ける鳥に気付けなかった。真っ先に気付いた「彼」が貴女の帰村を止めようと動いたみたいだけど……」
 「……私が、振り切った……」
 村の入口を少し入った所まで戻った時、やけに賑やかな気配が
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