蝉時雨
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季節はそう――夏だ。蝉の鳴き声が辺りを包み五月蠅くて耳障りで、暑くてたまらない日。
「暑い」
口から出て来る言葉はそればかり。「本当だよねー」目の前に座っていた幼馴染が振り返りざまに同じ言葉を吐いた。僕達は学生。学校が終わった帰り道。木々が生い茂る薄暗い道で駄弁り休憩中。
「あぁ……本当に暑い」サンサンと輝き照らす太陽を憎たらしく見上げながら吐き捨てる。
頭は汗で濡れて服着ていた服はびしょびしょで気持ちが悪い。
「臭い」
今日の最高気温は何度だったっけ? 四十度くらいはいってるだろこの熱さだと。太陽の熱い光で熱しられた地面から湧き上がる湯気と蜃気楼……そして鉄の臭い。
「それは我慢しなよ――だって」下を向く幼馴染に合わせて視線を動かせばそこにあるのは真っ黒な塊――いや違うか。真っ赤な塊となった人間か。
ケタケタと笑う幼馴染の手には真っ赤な血がべっとりとついたナイフ。俺の手には大きな鉈。これまたべっとりと赤黒い血がついて地面に滴り落ちてやがる。
まえに幼馴染がこんなことを言っていた。人に刃を突き立てる感覚は、ボール紙に錆びた鋏を喰い込ませるそれとよく似ている。
人肉は意外に硬くて、人皮は案外柔らかい。
切れる筈なのに切れなくて、それでも少しずつ切れていくもどかしさが実によく似ているそうだ。ある程度のところまで切り進めると切る難易度があがるのも、実は人体に通じいる。人間には内臓やら骨やら、余分な内臓物が玩具箱みたいに詰まっているようなものだから、刺すだけでなく切ろうとすると、それなりの労苦を要する。だからこそ男の俺の出番というわけ。
「………………ッ」
地べたに寝転がり、もがき苦しむ男が俺を睨む。
俺が言うことではないが、なんとも人相が悪い。町中を普通に歩いているだけで、職務質問の魔の手が勝手に襲いかかってきそうだ。
金色に染めた短髪の髪にこれも染めたのか金色の髭に角ばった顔、ピアスまみれの唇、血走った目……はあいつの所為か。
「今回は警察じゃなくてーただの復讐犯だけどねー」座布団代わりに男の上に馬乗りとなり楽しそうに笑ってやがる。ったく誰の所為でこんな面倒なことに付き合わされているんだと思ってんだあいつは。
いやあの笑顔は何も分かってない奴の笑顔か。
「……、…………っ、………………!!」
なにやら抵抗しようとしているが、それも叶うまい。
抵抗の術は、既に刈り取ったから。
男の体にはもう手足は存在しない。邪魔だから切り取っておいてと幼馴染さまからのご命令だ。
ちなみに俺が最初に壊したのは、こいつの喉だ。少なくとも、声が出せない程度には破壊しておいた。ただでさえ蝉時雨で嫌悪しているのに、そこへさらに悲鳴なんて耳障りな雑音を撒き散らされては、堪ったものではないからな。
助けを求める手段の
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