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東方死人録
プロローグ 「死」

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後はこれを飲めば終わり。ゆっくりと愚鈍になった眼球を動かし手元に視線をやる。そこには白い粒が多量に握られていた。感慨深い…なんて訳があるはずもなく。感慨を感じられるなら現在こうはなっていないだろう。今度はゆっくりと空を見上げる。真っ黒に染まった夜空には星は見えず、微かな月明かりに照らされた雪がちらちらと降ってきている。そこそこ綺麗だなんて思う。でも雪の元を辿るとそれは車の排気ガスだったり何だったりするわけで、消して綺麗な物じゃあない。見た目だけ。それはまるでこの世界みたい、或いは自分そのものみたいだと思った。が、そもそもそれらは見た目が綺麗なのかさえ怪しい。
今現在俺は木に寄っかかっている。ここは回りは森で覆われて当然ながら人の気配はない。というかあったらこれから困る。真っ暗な木々の間からはなんだか怪しい気配を感じる気がした。人間の本能だろうか?暗闇や謎に恐怖感を持つのは。
そういえば、俺の目には精気が無くてまるで妖かし、妖怪みたいだ、なんて良く変な後輩に言われたがとことん失礼なやつだと思う。どれだけあいつを世話してやったと…ああ、俺が居なくなるとあいつ一人になっちゃうんじゃね?それは少し心残りだ。でもきっと彼女は本当に綺麗だからきっと大丈夫に違いない。多分。
なんて余り思ってもないことを考えつつ、もう思考するのも面倒くさくなってきたので手にした錠剤をゴクリと飲み込む。
はい、これで終了。
一息ついて全身を脱力する。酒で火照った体と、外気の突き刺すような寒さが、ぼんやりした意識で感じる全てだった。雪が強くなっていく。その内吹雪くのじゃないだろうか。そんな中ここに来る物好きは居ないはず。なら安心して微睡みに見を任せられる。眠りに落ちる前にこうならない方法は有ったのかなんて考えるが、無いからこうなってる訳である。まあ、これでこういう悩み達からもおさらばである。不安は全くない。あるとすれば、恐らくこの後俺は地獄と呼ばれるところに行くはずなのだけれど、そもそも死後の世界が有る訳がないと思っている達なので。てか、有ったら困る。困る?何が?誰が?
…ああ、頭がついぞ回らなくなってきたみたいだ。瞼も重くなってきた。既に冷え切った体は全くもって動かないが、辛うじて口は動く。
そうだ、どうせなら死に際の一言を残しておこうか。

「素晴らしい世界、さようなら。んで二度と来るかバーカ。」

 辛うじて口を動かしてそう言い放った。もし神がいるなら輪廻転生とか本当にやめて欲しい。ここで全てを終わりにして欲しいもんだ。
そして、重い瞼が遂にくっつく。意識はまどろみの底へと落ちていく。つまり俺は眠りについた。
正真正銘永遠の眠りである。



 そのはずだった。
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