第三章
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そのまま海の中に飛び込んでしまった。制服のままずぶ濡れになった。
それは僕だけじゃなかった。彼女もだった。
海から出ると彼女も海の中にいた。白いブラウスも紺のプリーツスカートもずぶ濡れになってしまっている。
僕はその彼女を見て目を丸くさせて尋ねた。
「どうして?」
「だって。プレゼントだから」
「僕のプレゼントだから」
「今言ったじゃない。ずっと付けていたいって」
「それでなんだ」
「そう。失くしたら駄目だから」
だから彼女も何とか手に取ろうとして海に落ちたというのだ。
「けれど取ってくれて有り難う」
「うん。けれどね」
「濡れちゃったね」
「二人共ね。ずぶ濡れだよね」
「海だから大変よ」
真水に比べてずっと。潮だから後が大変だ。
「お洗濯してちゃんと潮を洗い落とさないと」
「そうだね。けれどね」
僕は髪の毛からも海水を滴らせながら彼女に言った。彼女もその黒い髪がシャワーを浴びたみたいにずぶ濡れになっている。
「カチューシャはちゃんとね」
「取ってくれたのね」
「はい、これ」
そのカチューシャを彼女に差し出して言った。
「どうぞ」
「有り難う。それじゃあ」
彼女は僕からそのカチューシャを受け取ってまた頭に付けた。濡れた黒い髪に白い天使のリングが戻った。
その天使のリングを戻してから僕にこう言ってきた。
「今度ね」
「今度って?」
「海に行こう」
こう僕に言ってきた。
「休日にね」
「今行ってるじゃない」
「違うわよ。ちゃんと水着を持って行ってね」
それでだというのだ。
「泳ごう。二人でね」
「あっ、そういう意味なんだ」
「これも付けて行くから」
自分の両手でカチューシャを触りながら笑顔で僕に言ってくれた。
「楽しみにしててね」
「それもだね」
「勿論よ。それと水着も着ていくから」
それも忘れていなかった。水着も嬉しいけれど僕がプレゼントしたカチューシャを付けてきてくれる、僕はこのことが嬉しくて仕方なくで幸せの絶頂の中にいられた。
カチューシャEVERYDAY 完
2012・11・3
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