GENESIS・PROJECT
[3/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
いたあの村に着いた。行くまでの数々の光景は冬の儚さを感じさせ、そこには「安心感」が存在していた。
嘗ての農村に着いたや否や、霊夢たちはバイクを止めて降りると、老婆が帰ってきた三人を迎えた。逃亡劇を繰り広げては疲弊する彼女たちを優しく抱擁するように、その言葉は落ち着きのあるものであった。
「おお…また汗だくになって…のう。少し休憩していきなされ。それに、新しい人がいるのう」
「うにゅ?私?」
お空は不思議そうな顔を浮かべていた。そんな老婆に説明を加える霊夢は慣れた口調で、既にこの世界の摂理たるものを把握しているようであった。
奴隷解放の水先案内人のような顔立ちは、かの会社が最も畏怖嫌厭するであろう解放者の義である。…しかしそこに『それ』はあったのだ。──おお、永遠の遍在よ、永遠の不在よ、おお、永遠の──徒労よ!
「彼女も奴隷だったけど、奴らの実験を受けて洗脳されていたわ。…今は平気だけど、他にも洗脳された仲間がいることに違いはなさそうね」
「そうかい…他にもまだ……」
老婆はやはり悲しそうであった。その悲哀を直接的に顔に出し、その皺を緩徐にさせた。俯き悲しむ老婆の苦悩は何時に取り去られる事になるのだろうか、それは誰にも知る由は無い。近くにあったコンクリートブロックに腰掛けて、その闇をただ贖った。この運命を共同体と歩む一人の善くて義しき者の一人として、そして絶対的なヒエラルキーに囚われる自己の精神の打たれ弱さに対する一人として。
「どうしてこんなことを出来るのか、のう…。人権と言うものは何処へ行ってしまったのかい…」
「…大丈夫よ。今にその『人権』を取り戻してみせるわ」
霊夢は自信満々で伝えると、老婆はそんな彼女の右手を両手で握った。それは先を見出した、神の前の忠実な下僕である。天に大いなる力を求め、その奇跡を幸福と称して世に投げ打たんとする、憐れで貧弱な僧侶的道徳の生み出した似而非の信仰者である。
「あなたは仏様のようなお方じゃ…。…酷い扱いを受けている可哀想な奴隷たちを救おうとしておられる…」
「仏さま、だなんて…勘弁して欲しいものね」
彼女はその言葉に不意たる悪寒を感じた。背筋が凍りつくような、惨めな音韻である。心底侮蔑の漂白がされ、老婆のその〈善の見地のもとに〉一切を隷属させんとする是正への意思は、義務的な能動の償却として良心を蔓延らせようとする。正しく自己呵責の性分、死すべき魂の復活、良心の疚しさである。
かのホメロスとてオデュッセイアにこう残している──『死すべき者ら神々にむかい、いたもかこちごと言うこそ、訝しけれ!ただ我らのみより悪は来たる、と彼らは思えり。なれど、彼らは自ら愚かさにより、はた運命に背きてまで、禍をおのが身につくるなり』、と。
「でも霊夢はホント
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ