第一章
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描かせた絵
徳川家康はこの時窮地にあった。武田軍が領内に攻め込んできていたのだ。
孫子の風林火山の下赤い具足の軍勢はまさに炎の様に攻め込んできていた。その勢いを止めることは無理かと思われた。
家康の居城浜松城でもだ。武辺者揃いで知られる三河武士達もこう言っていた。
「武田には勝てぬぞ」
「うむ、あれは強過ぎる」
「武田信玄の強さは圧倒的ぞ」
「あれに対することができるとなると」
それこそだった。そんなことができるのは。
「越後の上杉だけぞ」
「上杉謙信しか張り合えぬな」
「あの軍神、越後の龍でもないと甲斐の虎には勝てぬ」
「とても無理じゃ」
武田の強さは天下に知られている。兵が強いだけではなかった。
馬もあれば二十四将という将帥達も揃っている。しかも主である信玄の戦上手たるやまさに虎であった。如何に三河武士といえどだった。
「相手にならぬのう」
「実際に今城を次々と奪われておるわ」
「このまま領内を抜かれて尾張に入るな」
「織田殿の国にな」
徳川の同盟者である織田信長の国、しかも本拠地と言ってもいい尾張に入るというのだ。このままではだ。
「織田殿は兵も多いし鉄砲も数多くある」
「では我等より対することができよう」
「我等は篭城して武田の兵を少しでも抑えよう」
「うむ、それがよいな」
彼等はこう考えていた。流石に武田の大軍、数も彼等の方が遥かに大きい。それならば敗れるに決まっているというのだ。
それでだった。彼等の殆どは篭城を主張した。これまで多くの戦で武辺を見せてきた三河武士も今回
ばかりはだった。
彼等は主君である家康にもだ。こう言うのだった。
「殿、この度ばかりは仕方ありませぬ」
「武田は強過ぎます」
「ここは篭城も止むを得なしです」
「篭城がよいかと」
「それしかないか」
家康は主の席において苦々しい顔になっていた。そうしてだった。
その彼等にだ。こう言ったのだった。
「武田が相手ではか」
「相手が悪過ぎます」
とにかく何につけてもだ。武田のあまりもの強さが問題だった。
「適う筈がありません」
「左様か。わしとしては意地を見せたいが」
家康はこれまで武辺者として知られ先の姉川の合戦でも勇名を馳せた。それ故に今度もだと考えていたのだ。
しかし家康とて馬鹿ではない。武田の強さはわかっている。それでだった。
「仕方ないのう、今度ばかりは」
「ではこの浜松に篭城ということで」
「その様に」
「うむ」
その苦々しい顔で頷いた。こうしてだった。
家康も篭城を決めた。浜松城の縄文を固く閉ざし囲ん
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