偶像の黄昏
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しか有り得なかった。
「ギュウイイイイイイイイイイイイイン!!!」
体の中心を射貫かれたIDOLAはそのまま唸り声のようなエンジン音を上げ、遂には爆発した。中は黒煙で包まれたが、フランはすぐに立っては銃を拾い、空の背中の特殊なPDMを撃つ。そして彼女は意識を取り戻したのである。彼女のPDMに込められていたerasure.exeファイルがPDMごと破損したのだ。彼女の目は元に戻っていき、徐々に正気を取り戻す様相を呈していた。
「うにゅ…ここは…ゲホンゲホン……何処、ですか?」
お空は部屋の中で近くにいたフランに聞く。その呑気な目は今起こった事象を知らぬ、安堵と平静に満ちた降伏の眼差しであった。
そんな空をすぐさま現実に連れ戻さんとする現実主義者の遣いは、如何にして彼女にとって残酷であったか?…常ならぬ恐怖を抱きては、眠る可愛げな純粋を紅に染め上げて、粗雑にも幸福と呼ばれているものが導かれんとされる帰結は自分の奥底に見出される至高の正義の全てから目を逸らすことと等しいと言う不条理である。
「早くここを出るわよ!」
何も分からなかった空を引っ張る二人。それぞれ片手ずつ無理やり持っていこうとする事に対して、空は仕方なく身を動かした。黒煙が充満する世界で彼女たちは脱出を図ったのだ。――これで二台目のGENESISも破壊したのである。
◆◆◆
「突破された。最悪だ」
博士は状況報告をパチュリーに伝える。近場のコンビニで買ってきたチョコのスナック菓子を頬張りながら気楽に過ごすパチュリーに、博士は顔面を蒼白に染め上げては俯いて述べている。見えない壁が大きく二人の間を築き上げている事に第三者は誰も気づけない事は無いだろう。
「段々笑えなくなってきたわね。でも空の力データは再回収したんでしょう?」
「当たり前だ。あれは壊れたら洗脳も解けるが、力も再回収して無くなる。…置き土産だ」
博士は困った顔をしていた。歯を食いしばらせて、近くにあった塗り壁に八つ当たりする。無性に当たりたくなる性分は彼女の気の荒さを体現していた。大きく蹴飛ばして音を立てる事にパチュリーは目を細めた。
「あの吸血鬼までもいたとは…。こうなったらマスコミに頼むしかない。国営放送局に私が赴いて、細かい情報を拡散させよう。これは一種の『緊急事態』だ」
「にとり、煩いわ。貴方には『静かにする』と言う礼節が弁えられないのかしら」
博士はそれを言われては覚め、その無礼を詫びた。しかし彼女の絶望ぶりは止まず、今に死にそうな顔面さえしていた。フィリップの描いた短編集にて、その小さき身で世の悪辣、没義道、残忍、苛酷に一矢報いて死を迎える少女の逸話の中に登場する母親の絶望は、今に彼女の顔と似ていたことだろう。
「で
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