偶像の黄昏
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彼女はバイクを再び走らせていた。毎度のことながらメーターは限界を示し、高速で風を切る。稚魚の如き敏捷さは、その一瞬を轟く稲妻のように走り抜く。囁き声を立てる微風を悠然と友として、荒れる背景への悼辞を告げるのだ──それは彼女自身の平静を毟った無神経な叛逆意志の断章として。
信号無視で車と衝突しそうになるが、彼女の運転技術でそのまま突っ切っていく様は、何をも恐れぬ〈頽廃道徳〉の所業に他ならない。
「…霊夢……運転が派手すぎるよ…」
「急ぐに損はないわ」
彼女たちはトンネルや陸橋をいくつも潜っては渡り、かつて行ったC区駅を目指す。茶褐色の木々が生い茂り、無理に道を通したようにしか思えぬような過酷な峠の坂を易々と疾走する。遠くに見ゆるは禿山への衰退である。白濁した光の一粒一粒が堆積する土塊は今に顔を見せない。目の前に続く外の大地への道筋は暗闇を誇るトンネルに初冬の薄光が吸収される。頬に触れる寒気は、本格的なものでは無いと言えども徐々に冬を訪れさせている。
音を立てる彼女たちのバイクは猛禽類に相似した鋭利な哮りを放つ。排出される人間の暗黒が、その白々しい世界に足跡を残す。金雀児のような優しさはそこに存在し得る訳でもなく──交差点にある青い案内板に「C区駅」と矢印が真上に書かれている。淋しさだけが霧のように立ち込め、雪の回廊を進む二人の影が濃密に描かれている…。
「これは私たちの戦いなのよ。一刻も早くGENESIS:IDOLAを破壊しないと……!」
彼女は非常に焦っていた。その焦燥は彼女が大地に溺れる魚のような苦しみを顔に出している事から、他者にも簡単に把握できるものであった。
◆◆◆
やがてバイクはB区を通り過ぎて、そのままC区駅に到着する。道行く人々には変な視線を浴びたが、別にどうでもよかった。貰った服が完全に迷彩効果を示し、彼女たちの存在を農民に書き替えていたのだ。服装を変えるだけでここまで捉えられ方が異なるとは…と言う人間心理的な懐疑さえ生まれるほどの〈順応〉であった。滴る雫の音が虚空に忽ち響き、街灯は人通りの少なくなった午後の駅を静かに照らす。路上駐車する二人は目的の座標は必然の『剣』があろうとも永遠に復興し続ける。無機質な鋼鉄の蔭に潜む彼岸に、彼女たちは向かうのだ。──汝等ここに入るもの一切の望みを棄てよ。…ああ、棄てるまでだとも。その〈生ける屍〉は憂いの聖寵を知らぬのだ──。
霊夢たちは貰ったフロアマップを参考にしながら、その迷宮を攻略していく。以前来た時は部分的なものであったが、今回は全体像を漂白する必要性があった。壊疽の殲滅、与えられた運命は如何にして残酷か。
「地下1、2Fは普通のデパートだけど、IDOLAはどうやら地下3Fにあるみたいね」
「でも暗証番号とかは大丈夫なの?」
フラ
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