第21話『奪われた流星の丘アルサス〜忍び寄る魔王の時代』【Aパート 】
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アルサスに――『黒地に銃砲』の御旗たる、テナルディエの軍旗が翻る。
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西へ沈みゆく夕凪が、まるで草原を焼き払うかのように吹き付け、獅子王凱の後ろ髪を静かに仰ぐ。
無論、彼だけではない。今、変わり果てたアルサスを見下ろすのは凱のほかに、ティッタ――フィグネリア――そして、ザイアンの姿もあった。
茜色に染まっていく光景は、ブリューヌ王国の……いや、世界の終末を思わせる。少なくとも、凱にはそう感じていた。
「……本当に人が住んでいるの?」
ヴォージュ山脈の一本道を駆け抜けて、ようやく到着した目的地に、フィグネリアは思わず息を呑んだ。彼女の言葉に、ティッタの表情は沈痛な面持ちになる。
聖剣王シャルルを始祖とするブリューヌ建国より数百年、まだ王都や公爵家を除く集落は決して裕福とはいえず、近隣諸侯との戦乱や、貴族による着服問題、疫病の流行り等で貧苦に喘ぐものは少なくない。
幼少期のエリザヴェータが住んでいた寒村も――
ウルス=ヴォルンの治めていたアルサスも――例外ではない。
統治者として、『疫病』という問題に悩み、結果……村を焼いた。
疫病の蔓延を防ぐ為に村を焼き払う選択が、果たして正しいかどうかは分からない。いや、そういう選択に是非を問うこと自体が間違いなのだ。
間違った選択かもしれない。しかし、必要な選択であったことだろう。
10年くらい前……うろ覚えだが、ティグルの父ウルスが悩んでいた場面を見たことがあると、ティッタは領主から聞いたことがある。
だが、今のアルサスに漂う大気は、それとはまったく別種のものだった。
どのような寒村でも、人がそこに住んでいる以上、『活気』が満ちている。
本来ならそこに浮かぶはずの、田畑を耕す光景が、子供達が走り回る光景が、行商人が行きかう光景が。
しかし――今のアルサスには、その活気が恐ろしく少ない。
特に――ユナヴィールの村。
アルサス一帯を見渡せる丘から、その村が真っ先に凱の目に入った。どれが廃家で、そして人が住んでいるのか区別のつかないほど荒れ果てた家屋。中には焼き払われたのか、黒焦げた柱と堀だけになったものもある。
「ザイアン……どうやらテナルディエ公爵がアルサスに居るのは本当のようだな」
「――――はい。父上は今、中央都市セレスタにいます」
今更な質問だったなと……凱は思う。
この惨状、何より、アリファールの乗せる風が、怨嗟と悲劇に叫ぶ声を、凱の耳元に運んでくる。
(ブリューヌ全体が……このような惨劇にまみれた声で喘いでいるのか?)
凱の唇が……ぎゅっとしまる。
アルサスだけじゃない――かつてムオジ
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