第一章
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入ってはいけない海
その海が何処にあるかは言えない。だから詳しい場所は隠しておく。
僕はその日友人達と共にその海に来た。来た理由は夏だからだ。海水浴でその海に来たのである。
だが海岸に行ってみるとだ。シーズンの筈なのに海は静かだった。実に閑散としたものだった。
海の家も閉まり他の店もない。泳いでいる者も白い砂浜にいるのも僕達しかいなかった。僕達はこのことにふしぎに思わざるを得なかった。
「まだお盆前なのにな」
「それでどうして誰もいないんだ?」
「海の家まで閉まってるじゃないか」
「これはどういうことなんだ」
「サーフィンをしている人もいないな」
目の前にはただ青い海がある。空も白い雲が所々にあり見事な夏の空を僕達に見せてくれている。だが、だった。
その誰もいない海にはだ。本当に誰もいなかった。
あまりにもおかしかった。それでだ。
僕達は一旦砂浜から出て道を行く人に聞いた。何故海には誰もいないのか。
その人はこの町の人だった。白髪の小柄なお婆さんだった。もう八十程だろうか。
お婆さんは僕達に問われてだ。こう言ってきた。
「今日は駄目なんだよ」
「今日は?」
「今日はっていいますと」
「今日だけはこの町の海には入ったら駄目なんだよ」
お婆さんは顔を顰めさせて僕達に言う。
「絶対にね」
「えっ、どうしてですか?」
「どうして今日は駄目なんですか?」
「鮫でも出るんですか?」
友人の一人がお婆さんに尋ねた。海といえばこの魚だ。
「だからですか」
「鮫なんてここには出ないよ」
お婆さんはすぐにそれは否定した。
「絶対にね」
「鮫じゃないんですか」
「鮫なんて可愛いものじゃないよ」
海の猛獣とも言われる鮫がこうだった。
「あんなものじゃないよ」
「鮫が可愛い?」
「あんなおっかないのがですか」
「可愛いんですか」
「そうだよ。この日だけは駄目なんだよ」
お婆さんは海を怯える様にして見て言う。
「というかあんた達今日は泳げないって誰かに言われなかったのかい?」
「今着いたばかりですから」
「車で」
僕達はすぐに答えた。
「それに寝泊りも車でする予定ですし」
「キャンピングカーで来たんですよ」
「そうかい。事情はわかったよ」
お婆さんは僕達の言葉に頷いてくれた。だが、だった。
あらためてだ。僕達にこう言ってきた。
「けれど今日は絶対に駄目なんだよ」
「海に入られないんですか」
「どうしても」
「いいかい、絶対に入ったら駄目だよ」
念押しさえしてきた。
「わかったね。それじゃあね」
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