アージェント 〜時の凍りし世界〜
第二章 《暁に凍る世界》
ドキドキ!?温泉パニック!!B
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白峰日暮。まだ髪が黒く、元気だった頃の氷雪と、それをあやす母、エリカ・W・シラミネ。その傍ら、父から貰った出土品のデバイス、後にハボクックとなるそれを弄る暁人。
しかし、それは長くは続かなかった。高熱を出して倒れ、五日も熱が引かない氷雪。診断の結果、多過ぎる魔力に体が耐えきれていないという。根本的な治療法は無く、途方に暮れる両親と、それに対しある提案を持ち掛ける“奴”。
そう、ここだ。ここで、ほんの少しでも“奴”を疑っていれば、何もかもが違う今があったかも知れない。そう思う暁人の後悔は止まない。だが、現実に『たられば』は無い。僅かな希望にすがり、彼らは“奴”に氷雪を託した。ーーーー託して、しまった。
そして、絶望が訪れる。血に塗れて、折り重なる様にして倒れる父と母。病室らしいその部屋は、壁や床、天井まで氷に覆われ、部屋の中央には胸を抑えて苦しむ氷雪がいる。手に修繕したばかりのハボクックを握る暁人は、ただ呆然と立ち尽くしている。
その耳に歓喜、いや、狂喜の声が届く。体が凍り付いた様に動かない中、視線だけをそちらに向けると、“奴”が手元のモニターを覗き込みながら、部屋の隅で哄笑している。
暁人は直感で悟った。全て、全て“奴”の仕業だと。
気が付けば、脇腹に鈍い痛みが。口から真っ赤な液体が吹き出す。しかし、既に暁人に理性は無く、ただ、目前の存在を抹殺するという、獣ですら抱かないような目的のみが、衝動として存在していた。そしてーーーー
次に意識を取り戻した時、既に病室は跡形も無く吹き飛んでいた。“奴”の姿は無い。血が足りないのが自分でも分かる。無数にあった裂傷を一先ず氷で塞ぐと、直ぐ近くに氷雪と、氷雪を庇うように父が倒れているのに気付く。
父が何事か叫ぶ。何か大切な事を言っていたのだろうが、それが何だったのかは今でも分からない。ただ、最後の一言だけは確かに聞き取った。
「……………行け!」
「ーーーーっ!…………ふぅ。」
突然響いた物音に、暁人は現実に引き戻される。集中している内に魔力が漏れ出した様で、湯船には薄く氷が張っている。それらは湯の熱で次第に融けていくが、僅かに湯の温度が下がっている。
「………誰か入ってきてる?」
暁人を現実に引き戻した音は、誰かが脱衣所の引き戸を開けた音だ。そこまで気付かなかったのも間抜けな話ではあるが、暁人の集中が深かった証明でもある。部屋に戻った時にはミハイルも眠っていたので、必然、入ってくるのは他の宿泊客だ。
「……鉢合わせるのもアレだしな、隠れるか。」
そう呟いた暁人は浴槽の真ん中に置かれた巨大な天然石の裏側に回る。年中寒すぎて露天風呂が作れないここでは、中にこういった装飾を施すのも珍しく無い。
後は気配を潜めていれば
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