少女
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人が目の前にいることを信じられなかった。──自分たちには到底出来ない、「国家を敵に回す」行為を彼女は平気で成し遂げているのだ。それが犯罪なのかどうかは、その統治国家の法律なら犯罪かもしれないが、幻想郷に法律などない。彼女に法律のことなど頭にないのだ。ただ暗黙の了解的な規定は存在していた。それが幻想郷の秩序もといルールを賄う〈道徳〉を生み出している。今に彼女はその正当の妥当性を知る。全てを了解の共通性でやっつけてきた存在の善悪真偽に媚びぬ現世的姿勢──流転の中に見出されるデュオニュソス的な霊魂の在り方──は、彼方より現れる神々の道徳を拒絶した。今に貴族的高潔性が、その聖を否定して嗤うのである───。
「…助けてくれたことは感謝するわ。──ありがとう」
「はい…ありがとうございます!」
2人は自分たちを匿ってくれた農民たちに感謝した。そこには一切の情が跳ね除けられた、ただ在る感謝の念が露呈されていた。気持ちとして差し出された煎餅と煎茶を頂く二人は、これが今まで味わったことのないような美味を誇っていたのを味覚で感じ取った。空腹は最高の調味料とは良く聞く言葉の一つだが、理に適ってこそ敷衍するのだろう。その論理的な考えに沿うと、やはり間違ってはいないのだ。
「…いいえ、そんな気にせんでもええ。ゆっくりしていきなさい。…そういや私たちが以前にお金を集めて、奴隷を助ける為に一人連れてきたのじゃが……その子とも気が合うかもしれないのう」
「え?…待って、今何処にいるかしら?」
すると近くにいた老翁が、そんな霊夢の問に答えては立ち上がった。弱々しい体を持ち上げ、曲がった腰をなんとか伸ばそうとする。髪は既に白みがかっており、幾筋も顔に入った皺は年季を感じさせる。
「…ならば、わしが呼んでこよう」
老爺はそんな彼女の期待に応えて、集会所から出ていった。鈍い動きからして、やはり動くことはそうそう慣れていないのだろうか。然しそれでも自律的に動こうとする意思は、そんな彼に整然的な命法を与えたことは疑う余地のない話だ。
「引き取った時はもの凄い暴行をくらっていたのう…顔は痣だらけじゃった…。……都会の人間たちはこんなことを平気でやりおる…。…それ故か、あの子は誰とも口を利かなかった……」
老婆は悲しそうな表情で話した。鎖を引きずる囚人が己の姿を恥ずるような心地で、項垂れ、ただ憔悴していた。鉄の靴を履いているかのように重たい空気が辺り一面に流出する。それらは二人を取り囲み、連綿的に憂鬱な気に浸らせる。油性の絵の具で描かれた暗い絵を鑑賞しているかのような気持ちであった。
「…すみません、暫く私もここにいていいでしょうか?」
「ゆっくり休んでいくとええ」
全員は仲間を歓迎した。彼らは優しく、そこには一切の裏の感情がな
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