少女
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、大きく深呼吸した。
追いかけてきたヘリコプターは既に二人を見失っており、それらの物騒なプロペラ音は聞こえなかった。
ぽちぽちと建っている一軒家。流石に合掌造りというわけではないが、家と合わせて畑や水田、ビニールハウスが点在していた。霊夢はそれらを見て、幻想郷とはまた別の郷愁を覚えたのである。ふと反射的に震える身体は、慣れぬ近代への反動か。
「…ここが噂の」
霊夢が呟くと、近くのビニールハウスの中で作業をしていた一人の老婆がそんな二人に気づき、記憶と照らし合わせた。そして、中継で映っていた巫女と姿が一致した。脳裏に映える姿形は、かの巫女であった。老婆は身をわなわなと震わせ、感嘆声を上げたのである。その様子や、石膏で作られた仮面の城を崩壊させた如し驚きであった。
「き、来たのかい遂に!」
老婆はすぐにそんな2人を歓迎した。熱く抱擁し、疲弊や疲労を親友とする二人を抱きしめた。ふと仲間は心の奥底から湧き出る新鮮な親近感の情に拠ったものなのか、目頭が少し熱くなった。驟雨を呈する壮観は、湧湯のように流れゆく。行く先々で拒絶された旅人の、「受け入れられた」という事実への審美的な感情であった。別称して安堵とも言うそれを、仲間は体現していた。
「あなたたちが…最近テレビに映ってる人かい?」
老婆はそう彼女たちに問うと、霊夢は頷いた。もはや言葉さえ出る力も残っている自信が無かった。極度の困憊が彼女に押し寄せ、図体を支える両脚も諤々と震えを見せていた。
「…そうかいそうかい、なら全員を集めなきゃのう!爺さんや、爺さんや!」
この老婆はすぐ家へ戻っていったが、この手のステレオタイプ的な〈田舎の幻想〉は痛く霊夢を感動させた。やっと実家に帰れたのだ、という無根拠的な安心感が全体を占める。疲弊への無意識的な反動形成と安堵の弁証法的展開が、今の彼女に与える心持ちの正体である。それを暴くに容易いのは相違ないだろう。
「──この世界にも…奴隷反対派の人間は存在するのね…」
「都会部の人間は賛成派が大多数ですが、急な発展に少し抵抗を持った農村部の方々は私たちを助けようとしてくれるんです。急激な時代変遷が全体に受け入れられるとは限らないんですよ」
仲間はそう言うと、さっきの老婆が手招きしていた。老婆は嬉々として玄関先から微笑んでおり、二人はその光景に多少なりとも癒された気がした。心が温まる一瞬は、霊夢にとってこの世界から来て初めての経験となった。
◆◆◆
老婆は農村に住む近所の人たちを集会所に集め、今ここにやってきた「有名人」を紹介する。集会所は畳が敷き詰められた会館のような場所で、広々とした作りとなっている。その場には老若男女問わず多数の人間が集まっており、聊か急とは言えど集結していた。皆はテレビの中で観た二
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