第3章 儚想のエレジー 2024/10
20話 ひびわれるおと
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沈めると、視界の端にティルネルが立っているのが見えた。どこか気遣わしげに、言葉を決めかねているようなオドオドした様子から滲み出る彼女の人の好さが、今は少し有難く思えた。
「………あ、あの、ごめんなさい………リンさん、その……」
「いや、お前は悪くないよ。むしろもう時間の問題だったのかも知れん」
天井を仰ぎながら、乾いた笑いさえ零れ出すのを止めずにティルネルに言う。
「もともと人付き合いが苦手だったけど、幼馴染でさえこの有様だ。こうなる前に話せることなんかいくらでもあったのに、下らない事ばかりに拘って後回しにした結果がこれ。詰まるところ自業自得なんだよな」
「でも、リンさんはちゃんと………ヒヨリさんに向き合おうと………」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、遅過ぎた。それに今回ばかりは………」
まだ、でも、と女々しい思考が湧き上がる。
それらが淀んで渦巻きだした思考を、否定するように頭を振り、言葉を口にした。
「………今回ばかりは、もう縁が切れたと思うしか無いだろうな」
それは、《ヒヨリを守る》という強迫観念とも我執とも取れない感情が膨らむ一方で、それに比例して増大した願望でもあった。守る苦しさから解放されたい。幼馴染を失うかも知れないという恐怖から逃げ出そうとする本能から、《ヒヨリの前から逃げ出したい》と願うようになっていたのもまた事実だ。その逃避願望がどれほど愚かしいことか、今まさに身を以て打ちひしがれているところであるが、俺は確かにこの結末を求めていた。故にこそ、これは似合いの幕切れなのだろう。そうであるならば、この場に居るもう一人、気遣わしげな視線を向けてくる彼女こそある意味では居場所を違えている。
「ほら、ヒヨリのところへ行ってやってくれ。お前の役目だろ?」
頼むつもりで声にしたものの、声色が低く落ち込んだ所為で追い払うような、それこそお門違いな聞こえ方をしてしまったのではと発言の後に後悔したが、ティルネルはどういうわけか頑としてヒヨリの後を追おうとはしなかった。僅かにヒヨリの行く先を見て逡巡した様子を垣間見せて、何かを振り払うように頭を振るうと、どこか毅然とした面持ちで見据えてくる。
「いいえ、リンさんに依頼をお願いしたのは私ですから。同行します」
ああ、そういえばと、ほんの数十分前のことを思い出す。
直前の出来事もあってすっかり昔のことのような錯覚を覚えるが、発端はティルネル自身の申し出であり、彼女は最初から同行すると明言していた。どうにも頭の痛い状況だが、そもそもこの淀んだ空気の中に居続けるのは精神衛生上良い事は一つもないだろう。外に出て好転することも考えづらいが、約束を反故にする理由にもなりはしない。
その時の俺に
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