第3章 儚想のエレジー 2024/10
20話 ひびわれるおと
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言う。
耳に届いたか不安になる音量であったが、それこそ杞憂だったようで、ヒヨリはその場で立ち止まった。でも、決して振り返ろうとはしないまま、そのまま背を向けた格好を維持する。
「………どうして?」
ポツリと一言、質問が投げかけられる。
だが、その言葉が質問という形式をとっているだけで、どれだけの意味が込められているのかを理解してしまった俺の精神を痛烈に打ち責めた。これは謂うなれば、これまでの俺の選択と行為に対してヒヨリなりの《糾弾》なのだろう。
「どうして、今になって………そんなこと言うの?」
再度、答えを返せない俺にヒヨリは再び問いを向ける。
当然、返すに相応しい言葉を選べない俺は喉まで込み上げる選択肢を飲み下した。
「死んでほしくなかった」と言おうとする俺を、「その言葉は適切なのか」と卑下を反証する。
「重荷を背負わせたくない」と言おうとする俺を、「ではこの状況はなんだ」と独善を否定する。
空疎な言葉は自身の中で圧壊して、会話はまたしても途切れて空白だけが間延びしていく。ほんの数秒の経過でさえ精神を摩耗させるなか、ヒヨリはまた沈んだ声で話し出す。
「………わかってる。燐ちゃんが今までどれだけ頑張ってくれてたか、全部わかるよ。………だからね、ほんとはもっと早く頼って欲しかった。グリセルダさんの時も、クーちゃんたちが戦ってた時も、燐ちゃんの隣にね、………ッ………いたかったの………だから、いっぱい頑張ったんだよ? 私だって、強くなったんだよ?」
ヒヨリの声は、余すことなく感情を吐露した。
途切れ途切れだったそれは、だんだん引き攣って、湿り気を帯びて、振り返って見せた顔は悲痛さに満ちていた。奇しくもそれが、心にざらついたものを感じさせる要因となった《何か》を理解してしまう契機となった。そして、それが既に取り返しのつかないものであったと、更に深い後悔にうちひしがれた。
ヒヨリに死んでほしくないと、俺一人だけ死地へ向かった。
ヒヨリに重荷を背負わせたくないと、自分だけに苦渋を課した。
でも、現実としてそれらの選択は余りに独善的過ぎたと認めざるを得ない。
これまで俺を独りで死地に向かわせないように、ヒヨリは自身のステータスを強化し続けてくれた。
この地獄が始まってからずっと、ヒヨリは俺が一人で抱えようとした重荷を担おうとしてくれていた。
なのに、その手を振り払ったのは、いつでも俺自身だった。
ヒヨリを失うことを怖れて、それまで培ってきた努力を否定した。
ヒヨリを苦しませないようにと、示してくれた決意を踏みにじった。
俺自身も悪意あってではないと自己弁護をすればいくらでも言葉が湧き出るが、その自己弁護を言外に汲み取って一歩引
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