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ソードアート・オンライン 穹色の風
アインクラッド 後編
空の最も暗い時
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た世界の音全てが一気に戻ってきたような気分。心拍が過回転を起こして地響きのような心音が身体中から聞こえるのに気が付いたのもこの瞬間だ。
 包んでいた手の片方が分離して頭を覆っているフードを取り払った。そして露になる、一人だけカーディナルから特別なテクスチャを与えられているのではと思うほどに美しい黒いポニーテールと、マサキを一直線に見据える強い光を宿した二つの瞳。

「……エミ」
「わたしに任せて」
「――――ッ!」

 にこりと彼女が微笑むと、全身が金縛りにあったみたいにマサキは声が出せなくなった。エミはその脇をすり抜けキバオウたちの前まで行くと、大量の記録結晶を机の上にぶちまけた。

「な、なんや、これは」
「これは、事件の発生した三日前とその前後一日分のマサキ君の行動を記録した結晶です。この中の動画を見れば、彼が事件当時現場にいなかった、何よりの証拠になるはずです」

 また一つ、巨大な衝撃波が部屋中の顔をぶん殴って突き抜けた。記録結晶に保存できる動画の容量は、一個につき三時間程度でしかない。つまり、三日間、七十二時間分を録画しようとした場合、二十四個必要になる計算だ。記録結晶はデータの消去や上書きが可能で使いまわせるため他の結晶類ほど高価格ではないが、それでも気軽に何十個と購入できるような代物ではない。これほどの量を確保するのに一体幾らつぎ込んだのか、想像するだけでも恐ろしい。

「ま、丸々三日分の録画やと……お前ら正気か!?」
「正気でも狂気でも、貴方が出せと言った証拠は此処にあります。この場でチェックできないと言うのであれば、どうぞギルド本部にでも持ち帰って目を通してください。それとも、この記録には証拠能力がないと?」
「ぐ……おい、お前! これ全部、ワイの部屋まで持って行け!」

 アスナがキバオウに詰め寄ると、彼は奥歯をギリギリと音が出そうな程強く噛み締め、近くの部下に怒鳴りつけた。怒鳴られた部下の男が弾かれたように動き出す中、キバオウも立ち上がり、ドスドスと床を踏み鳴らして退室、取り巻きたちも泡を食ったようにそれを追いかけていく。緊急会議がなし崩し的に終了を迎えた瞬間であった。



 夢心地とは、こういう意識状態のことを指すのかも知れない――。エミとアスナに窮地を救われた恰好になった後最初に頭を過ぎったのは、そんな極めて他人事な感想だった。アスナとエミの歩いた線をなぞるように、足が勝手に前へと進む。視覚から頭に流入する情報量は極僅かで目の前を歩く二人以外に何があり、それが何色なのかも定かではない。その代わり、自分を外から見ているような不思議な感覚が意識の大部分を占めていた。
 やがてドアが開くと、NPCの奏でる薄っぺらいBGMが流れてきた。それと同時に、ぼやけていた背景から幾つかの影が湯気みたい
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