アインクラッド 後編
空の最も暗い時
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た一件と流れが重なるようにも思えたが、しかし当時のキリトと今のアスナでは基盤となるイメージ、評判において大きな差がある。事実、男の涙ぐましい怒声に乗じる者は誰もいなかった。
「おうおう、黙って聞いてりゃ、何だよそれは! マサキもアスナも、完全な言いがかりじゃねぇか!」
「煩い! 弱小ギルトは黙っていろ!」
「ンだとぉ……!?」
焦りで口が滑ったのだろうが、その発言はこの状況で最もしてはならないものだった。SAO特有のオーバーな感情表現により、今にも爆発せんばかりの勢いで顔を真っ赤に染め上げたクラインがデスクを叩いて立ち上がる。元から全身まっかっかの服装をしていることもあり、まさに茹でダコさながらだ……等と傍観しているような場合ではなくなってきた。今にも殴りかからんばかりのクラインは両隣のプレイヤーに制止され辛うじてその場に留まってはいるが、鎖役となっている彼らの顔にも隠しきれない不満の色が浮き出ている。
「いい加減に憶測で話をするのは――」
「――静粛に!」
風向きが変わらないうちに一方的に捲くし立てて終わらせようとしたマサキの考えをアスナの居合い抜きの如き一声が両断した瞬間だった。真っ二つにされた藁人形のように動かなくなったDDO幹部にツカツカと歩み寄るアスナ。マサキからは後姿しか見えないが、彼女の眼光はモンスターに刺突を見舞う寸前のよう鋭さ帯びているに違いない。
「そこまで言うのなら、証拠をご覧にいれましょう。……入って来て!」
アスナがくるりと身を翻し、凛とした視線に射抜かれた――と思ったのは一瞬。マサキはすぐに彼女が見ているのが自分ではなく、背後にある何かだと言うことに気がついた。それにつられてマサキも振り返ると、今まさに出入り口の扉が開け放たれようとしていた。
音もなく入ってきたその人影に、群集は皆言葉を失った。身体をすっぽりと覆い隠した濃紺のフード付きロングコートに黒いブーツ。身長は百六十センチ程度だろうか。フードを目深に被っていて、人相はおろか性別すら判別がつかない。裾がポンチョのように広がったコートを揺らして歩く様は、死霊系モンスターのような不気味さを放っていた。
シルエットはマサキの目の前まで足音すら立てずやって来た。
フードの中に顎のシルエット。
細い顎だった。
血溜まりで口角を割いて笑いそうな。
「大丈夫だから」
暗がりの中、微かに浮かぶ口元が震えたのは。脳内に響いた音声は。現実か、それとも虚構か。
混濁したマサキの意識を引き戻したのは、右手が感じた圧力だった。見下ろせば、脱力し指先が湾曲した右手が両手で握り締められていた。その手の小ささに、柔らかさに、体温に、マサキは覚えがあった。
どこか遠くへトリップしてい
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