アインクラッド 後編
空の最も暗い時
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「一日中。夜もだ」
キバオウのガラの悪い顔面があらゆる方向から引っ張られ引きつったのがよく見えた。その余波で目を大きく剥いていた彼は数秒の時間を要して表情筋のパニックを解くと、デスクを両手で叩き立ち上がる。
「何やそれは! 聞いてへんぞ!」
その言葉はマサキに向けられたものではない。彼の視線の先では、DDOで幹部を務める男が、先ほどのキバオウを鏡に映したような顔を晒していた。
「それは……ほ、本当なのか!?」
「ええ、本当です。該当日時、私は彼と行動を共にしていたことを証言します」
こうもきっぱりと断じられてしまっては、それ以上言い返すこともできまい。中小ギルドの面々が「聞いていた話と違う」とざわめき出す中で、キバオウに睨まれたDDO幹部がみるみるうちに顔色を蒼白に染めていく。
どういうわけかは知らないが、自分は嵌められかけていたらしい――一連の流れを見て、マサキはそう推測した。仮に今の証言が無かったとしても、彼らの論理は余りに暴力的で、例えば現実の裁判所で同じ理屈を通すことは百パーセント不可能だろう。だがこのゲームにプレイヤー間の諍いを中立的立場で裁く機構は存在しない。アンチクリミナルコード圏内にいる限り、プレイヤー自身、あるいはその財産等に直接傷を付けることは基本的に出来ないが、社会的な地位を貶めようとするのならばやりようは幾らでもあるのが実情なのだ。
とは言え、今回はSAO全プレイヤーの中でも屈指の信頼度を持つアスナの証言のおかげで切り抜けられそうだ――僅かの捩れも枝毛もないアスナの栗色の髪を視界に捉え軽く息を吐いた時、入れ替わりに一抹の疑問を吸入した。
先ほどアスナは、マサキに良く似た人物がPKを繰り返しているという事実を知っている口ぶりだった。それ自体は血盟騎士団副団長という立場なら不思議はない。団長が攻略にしか興味を示さないあの男であれば尚の事だ。しかし、だとしたら何故それを知りながら、アスナはマサキを連れ出したのだろうか。頭の切れる彼女のことだ、この結論ありきの魔女裁判が行われる可能性を考慮できなかったはずはない。ということは、何らかの意図によりマサキのアリバイを作ったということになる。それは彼女個人の意思なのか、それとも血盟騎士団副団長という立場故の責任感なのか、それとも誰か第三者の差し金なのか――。
マサキは途端に苦虫を噛み潰したように顔を歪める。その時だった。
「そ、そうだ! 《閃光》の証言が正しいという保証も無い! 血盟騎士団が《風刀》の囲い込みを狙って手を組んでいる可能性だってあるじゃないか!」
どうやら、かの御仁は何をしてでも自分を殺人犯にしたいらしい。第一層ボス攻略戦の後にキリトがディアベルを見殺しにしたとの謗りを受け《ビーター》として糾弾され
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