アインクラッド 後編
空の最も暗い時
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「ギィィィィィィ――!」
赤茶けた土が覆う細い山道を踏みしめ、幅の広いカトラスを右手に持ったガイコツ剣士が声なのか骨が軋んでいるのか分からない音を立てて突っ込んでくる。直線的、かつレベルに圧倒的な差のある攻撃ではあったが、敏捷極振りの影響で防御力が文字通り布っぺら一枚しかないマサキにとっては決して楽観できる代物ではない。
とは言えマサキとてもう一年以上もこのゲームの最前線で戦い続けてきたプレイヤーだ。単純なカトラスの軌道を読み切ると、突進してくるスケルトンに向かって自分から駆け出す。ひたすら鍛え上げた俊敏さで4メートル程の距離を一呼吸で詰め、まだカトラスを振りかぶる最中だったスケルトンのあばらを逆袈裟に切り上げる。ごく僅かの硬直を挟んでガイコツ剣士が霧散したのを視界の端で確認し、今度はそれより3メートル後方のもう片方へ猛スピードで突っ込んだ。慌ててカトラスで迎え撃とうとしたスケルトンの脇を一度スルー、後方へ回りこんだところで赤い砂塵を巻き上げつつ急停止し、身体を捻って飛び上がった力を利用して右足を振りぬく。背骨に強烈な一撃を喰らったスケルトンは二、三歩よろめきながら前へ進み片膝を着く。行動不能状態のサインだ。マサキの目が、スケルトンの向こうから細身のレイピアを片手に駆け寄るアスナの姿を捉える。
「スイッ――『退け!』えっ!?」
スイッチを宣言しようとした彼女へ怒号にも似た声を叩き付け、アスナが到着するよりも早く《蒼風》を横薙ぎに振るい頭蓋骨を斬り飛ばす。戦闘終了を示すアイテムドロップとコル入手のウィンドウを片目に、ソードスキルを中断した結果長い硬直を課せられたアスナが心配するような視線をマサキに向けていた。
アインクラッド第三十八層中央に位置する《衝天の連峰》。その名の通り、天を衝くほど高い山が連なる高山地帯というコンセプトのマップだが、上空に次層があるというアインクラッドの構造上百メートルを超えるオブジェクトが存在できないため、些か名前負けしている感は否めない。ただ、その山々を繋ぐ山道がこれでもかと言うほど激しいアップダウンを繰り返しているせいで、実際の標高より数倍は登ったような気分になる。
そしてそんな山道が、筋力値が平均より著しく低いマサキの体力にクリティカルヒットしていた。この世界では、基本的に筋力が低いほど筋力的な疲労を感じやすくなってしまうのだ。もっとも、根っからのインドア派であるマサキの場合、現実世界の体力なんて今よりも余程少ないだろうが。
疲労で集中力が低下してきたのか、そんな枝葉的なことを考え始めたマサキの少し先で、疲れを微塵も感じさせずつかつかと歩いていたアスナが振り返った。
「そろそろ日も暮れるわ。今日はここでキャンプしましょう」
「ああ……そうだな」
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