第百二十五話 秋田の思い出その四
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「あそこはね」
「特別な街なのね」
「うん、けれど夏の大阪は」
「楽しいけれど暑いから」
「だからだね」
「私はあまり行きたくないわ」
詩織さんにしてはというのだ。
「秋田の夏の方がずっといいわ」
「故郷のだね」
「そして神戸のね」
「ここの夏もなんだ」
「涼しいから」
大阪とは違って、とだ。詩織さんはこのこともはっきりと話した。
「何といっても」
「前は海、後ろは山でね」
「こんな涼しいとは思わなかったわ」
「その分冬は厳しんだよね」
このことには僕は苦笑いになった、夏の避暑地は冬の地獄だ。何しろ六甲にはスキー場まである位の場所だ。
「けれど冬はだね」
「それは慣れてるから」
「いいんだね」
「多分秋田よりは暖かいわね」
「多分ね」
そうだとだ、僕は詩織さんに答えた。
「気温みたら違うし」
「神戸の方が高いわね」
「そうなんだ、まあ風は強いけれど」
六甲おろしだ、これはある。
「それでもね」
「秋田の冬よりは暖かいわね」
「うん、それに八条荘は暖房しっかりしてるから」
冷房もだ、だからいつも快適だ。
「楽だと思うよ」
「じゃあコタツは」
「あっ、それはね」
「ないのね」
「洋館だから」
僕はまた苦笑いになって詩織さんに述べた。
「どうしてもね」
「コタツについては」
「置けないと思うよ」
「やっぱりそうなのね」
「詩織さんコタツ好きなんだ」
「お家にあったから」
秋田のそのお家にだ、詩織さんにとっては実家だ。
「だからね」
「それでなんだ」
「お母さんと子供の頃ずっと入っていたから」
「ここに来るまで」
「そう、それまでね」
ずっと、というのだ。冬の間は。
「だから好きだけれど」
「うん、けれどね」
「洋館だから」
「そこまではね」
どうしてもとだ、僕は詩織さんに答えた。
「無理だよ」
「そうなのね」
「和室はないからね」
完全な洋館だ、ただしトイレとバスルームは一緒の場所にはない。僕もこのユニット形式はどうにも苦手だ。おトイレとお風呂が何故同じ部屋にあるのか理解出来ない。
「コタツを置ける様な」
「私のお部屋もそうだし」
「ハウステンボスのホテルの部屋みたいな」
「まさにそうね」
「そう、だからコタツは」
「諦めるしかないわね」
「残念だけれどね」
僕は詩織さんに申し訳ない顔で話した。
「そこだけはね」
「わかったわ、けれどね」
「けれど?」
「ここを出たら」
その時はとだ、詩織さんは望む目で話した。
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