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真田十勇士
巻ノ百六 秘奥義その五

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「そしてここに至ったが」
「ではここは」
「悟りに向かう場所でもある」
「そうでしたか」
「ここはな」 
 この空の世界はというのだ、何もないこの世界は。
「それで悟りを開くまでの修行をしてじゃ」
「それがしは得ますか」
「そうなる、ではよいな」
「お願いします」
「この炎受けるのじゃ」
 不動はこう言い幸村を一瞥した、すると。
 彼が言った通り激しい紅蓮の炎が幸村を包んだ、それは激しい熱と焼く感触を彼に与えたが。
 幸村は身じろぎも呻ぎ声もあげはしない、そうして座禅を組んだままだった。
 炎に焼かれた、それが気の遠くなる位の時を経たと思われたが。
 炎が消え去った時だ、不動は彼に言った。
「ここまでは耐えたな」
「では」
「余の炎を耐えることもだ」
 それもというのだ。
「滅多に出来るものではない」
「邪なものも心の一部故に」
「心を焼かれることはだ」
「激しい痛みでした」
「並の者なら耐えられぬ」
 心を焼かれることはというのだ。
「到底な、しかしな」
「それでもですな」
「お主はそれを果たした」
 その痛み、苦しみに耐えきったというのだ。
「まずはよし、ではじゃ」
「これからですな」
「余自ら修行の相手をしてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「お主を鍛えてじゃ」
「そうして」
「お主が掴みたいものを掴め」
「それではその為に」
「はじめるぞ」
「わかり申した」
 幸村は立ち上がった、すると彼の両手にあの十字槍が一本ずつ備わった。その双槍を以てだった。
 不動と激しい修行をはじめた、空の中で彼は明王を相手にそれを行うことをはじめたのだった。
 大久保彦左衛門はこの時江戸にいてだ、親しい者達にこんなことを漏らしていた。
「近頃武が廃れておらぬか」
「武がですか」
「それがですか」
「そんな気がせぬか」
 こう言うのだった。
「幕府が開かれる前と比べてな」
「四天王の方々もおられなくなり」
「それで、ですな」
「武辺者がいなくなり」
「そのせいで」
「武が廃れてきたと」
「そしてじゃ」
 武が廃れたうえでというのだ。
「謀が増えておらぬか」
「そういえば本多殿といい」
「ご子息の上総介殿は特にですな」
「そして崇伝殿もおり」
「何かと」
「大御所様の周りにもじゃ」
 家康の、というのだ。
「どうにもな」
「謀の士が増え」
「そうした者達が話をしてですか」
「幅を利かせておる」
「そう言われますか」
「わしの気のせいではあるまい」
 このことはというのだ。
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