巻ノ百六 秘奥義その三
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「近頃の父上ですが」
「修行に励まれていてですね」
「はい」
まさにというのだ。
「鬼神の如きです」
「そうしたお顔だと」
「いえ、お顔は変わりないですが」
しかしというのだ。
「その気配がです」
「鬼神のものですか」
「そうなってきていると感じます」
「そうなのですか」
「ただ。恐ろしくはありません」
鬼神といってもというのだ。
「何かを見据えた一本気な」
「そうした鬼ですか」
「私はそう感じます」
幼い顔と声で言うのだった。
「鬼は人を喰らう恐ろしいものというだけではないですね」
「そうです、鬼は一本気でもあります」
大助が言う様にとだ、母も話した。
「何処までも」
「父上にはその一本気を感じますので」
「そうした鬼神とですか」
「大助は思います」
「そうですか、そなたはもうそうしたことがわかるんですね」
「そうしたこととは」
「鬼といっても一つではありません」
そのことがというのだ。
「それがわかるとは見事です」
「私はですか」
「はい」
その通りだというのだ。
「見事です、しかしその見事さに驕らず」
「これからもですね」
「文武の鍛錬に励むのです」
「そしてですね」
「世に出る時を待つのです」
是非にというのだ。
「宜しいですね」
「わかりました」
大助は母の言葉に素直に頷いた、そのうえで彼もまた修行に励んだ。そして幸村もだった。
寝る間もないまでに修行に励んだ、その中で。
ふとだ、座禅を組んでいる時にだった。
周りに何かが見えてきた、得体の知れぬ者達がだ。彼等は幸村に何かを言うがその彼等をだった。
幸村は無視して座禅を続けた、そうして。
異形の者達が彼に集まり水をかけたり罵ったり殴ったり蹴ったりしても動かなかった。ただひたすら座禅を続け。
そうしていると今度はだった、不意に自分が空の中にいるのを感じた。すると目の前に憤怒の顔をし右手に剣を持ち左手を印にして背に紅蓮の炎を背負った仏が彼の前に出て来て問うてきた。
「人間よ」
「貴方は」
「何だと思う」
「不動明王でしょうか」
「如何にも」
その通りだとだ、不動明王は幸村に答えた。
「私は不動だ」
「やはりそうですか」
「知っていよう、大日如来でもある」
「大日如来の憤怒の時のお姿ですね」
「そうだ」
その通りという返事だった。
「やはり知っておるか」
「学んできました」
「兵法だけを学んできたのではないか」
「書は目につく限りのものを」
読んできたというのだ。
「それがしも」
「そうであるか」
「それで御仏の教えも」
それもまたというのだ。
「未熟ながらも知っているつもりです」
「わかった、そのそなたにあらためて聞くが」
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