第五章 トリスタニアの休日
プロローグ 一人の少女
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「やはり、彼が怪しいと」
「はっ。まず間違いがないと思われますが、ただ証拠が」
「そう……ですか」
明かりが落ちた部屋には二つの影があった。
一つは椅子に座り。
一つは跪いている。
影は声を潜め、何かを話している。
広い部屋の中に二つの影の声が響く。
「では、計画通りに」
「……はい、全力を尽くします」
パタンと微かな扉が閉まる音が響き、影の内一つが部屋の中からいなくなる。部屋に残る影は、窓際まで歩み寄ると、窓から除く二つの月を見上げた。双月の光は影を取り去り、影に覆われた存在を顕にする。
「……これで……いいのでしょうか……」
影の中から現れたのは、一人の少女。
憂いや悲しみが満ちる薄いブルーの瞳に、空に浮かぶ月を浮かべる。
そっと窓に手をつき、ガラス越しに見える月に語りかけるように呟く。投げかけた問いは空に浮かぶ月にか己自身か、それとも……。
少女の問いに応える者はおらず、ただ静かに虚空に消えていく。
瞳に満ちる悲しみが溢れたのかの様に、少女の目尻から一雫の涙が流れ落ち……。
助けを求めるように口の中で何かを呟いた……。
「……え……みや……しろ……う……」
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