巻ノ百五 祖父との別れその九
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「そうして頂いて欲しい、しかし人は何時死ぬか」
「それはわかりませぬな」
「誰にも」
「人は必ず死ぬにしましても」
「それが何時かはですな」
「自分では決められぬ」
「そうですな」
「だからじゃ、父上はもう一度戦の場に出られ思う存分戦われたいのじゃ」
それが昌幸の願いだというのだ。
「そしてさらにな」
「幕府にですな」
「一泡と考えておられますな」
「むしろその一泡以上」
「そうお考えですな」
「うむ、だから戦が起こって欲しいと考えてはならぬが」
民達のことを考えてだ。
「しかしな」
「大殿のことを考えますと」
「それは果たされて欲しいですな」
「このまま朽ちては無念」
「だからこそ」
「そう思うが天命はわからぬ」
つまり何時死ぬかはというのだ。
「だからな」
「大殿もお歳故」
「そこが不安でありますか」
「確かに。人間五十年ですし」
「五十を過ぎますと」
「人は実にあっさりと死ぬ」
死ぬ時はというのだ。
「それこそあっという間じゃな」
「はい、それこそです」
「人の命なぞ呆気ないものです」
「死ぬ時はあっさりです」
「死ぬものです」
「そのこともあってですか」
「その通りじゃ、果たしてどうなるのか」
このことはというのだ。
「どうにもわからぬからな」
「殿もご心配ですか」
「どうにも」
「そうなのですか」
「長生きしてもらいたい」
是非にという言葉だった。
「そしてな」
「願いを適えて頂きたい」
「そのことはですな」
「殿の願いですな」
「うむ、是非な」
幸村の言葉には強い願いがあった、父昌幸に是非長生きして戦の場でむ一働きしてもらいたいというのだ。
しかしその願いが果たされるか、このことは誰にもわからなかった。まさに天命のみぞ知るものだった。
巻ノ百五 完
2017・5・1
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