第二十四話:プレデター
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でもラウラの無念を晴らそうと暴走したことについて、敬愛する教官にどうしても謝罪したかった。
ブリュンヒルデの右腕が一閃し、同時に自らの視界が急変する。撮影中のカメラを落としたかのような視界の変化に、エレナは自らの首が撥ねられたことを異常な冷静さで受け入れていた。せめて最後に姿を目に収めたかったと落涙した瞬間、ブリュンヒルデが振り返った。
しかし、そこに在る筈の顔は無く、無限の闇が人の貌に張り付いていた。紛い物の戦女神に完全に脳が凍りついた時、エレナ・ディートリヒの生命活動は停止した。
長閑な青空、白い雲。閑散とした軍事基地に場違いな悲鳴が木霊する。時折思い出したかのように銃声が響くも、悲鳴の連鎖は止まらない。
基地内は血の海と化していた。ありふれたホラー映画よろしく、戦女神を模った黒い何かが抜き身片手に生きとし生けるものを次々と一刀のもとに切り伏せ、まだ見ぬ獲物を求めて徘徊しているのだ。既に廊下は血と死体の宿便のむせ返るほどの臭気で溢れかえっていた。
脱出を試みた者は居なかったわけではない。事実上瓦解した叛徒達は、最早烏合の衆も同然だったが故に、様々な者が独断で脱出を決行したのである。
しかし、そういった者達もまた、潜んでいた襲撃者によって虱を潰す様に仕留められてしまった。謎の襲撃者と戦女神を模した怪物。お互いは競うように基地内の兵士たちを蹂躙していった。
最初の殺人から10日。腐敗しかけた死体が散乱する士官食堂のテーブルで高いびきをかいて熟睡している人影があった。影こと編田羅赦は、目覚めると規則正しい生活を心得た真人間のそれと同じく、洗面の後に朝食を摂り、歯を磨いた。10日も剃ってないが故に、鼻毛ほどの長さにまで伸びた顎髭が黒々と広がっている様に些か閉口するも、それも今日までの辛抱だと思えば、いくらか気が楽になった。最早、この基地に叛徒と呼べる人間は一人も居らず、すぐにでも鎮圧部隊が雪崩込んでくる事は間違いないだろう。
そして鎮圧の際に自らも証拠隠滅のために殺害することは想像に難くなかった。エレナ・ディートリヒ少佐が撃たれた時、死の嵐を巻き起こし、織斑千冬の現役時代の姿を真似た泥のような物体。ラシャには見覚えがあった。
VTシステム。正式名称ヴァルキリー・トレース・システム。IS競技の総本山たるモンド・グロッソにて優秀な成績を修めた選手の行動パターンを再現するプログラム。搭乗者にかかる負担が生命を脅かすレベルに及ぶ為、アラスカ条約によって使用を全面的に禁じられている禁断のシステムである。
本来ならば、搭乗者の存在が必要とされるものであるが、シュヴァルツェア・レーゲンに搭載されていたものは自律機動が出来る代物になっていた。それは、この国が自律機動が可能になるほど研究を進めていたことを
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