第二十四話:プレデター
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喪失感は、恐怖と怒りに変わった。
未だ政府から音沙汰がない状態に部下たちが苛つき始めている。業腹ながら、自らよりも統率力に長けている副隊長、クラリッサ・ハルフォーフ大尉は今回の決起に反対の立場を取った為、懲罰房に監禁せざるを得なかった。情報統制が徹底されているのか、報道機関のヘリさえ見えない空が恨めしい。格納されている3機のISを駆って近隣の街に試験運用中の燃料気化爆弾でも叩き込んでやろうかという考えがよぎった時、銃声が響いた。
「遂に行動を起こしたか?」
変化を待ち望んでいた隊長の口角が自然と釣り上がる。すぐに無線機で連絡を取りながら銃声の発生源を割り出し、道中合流した兵士数名と共にたどり着いたのは、資料室だった。見回りの兵士が一名、脳天をぶち抜かれて事切れていた。
「探せ、まだ遠くには行ってないはずだ」
振り向いた瞬間、エレナは視界の隅に血溜まりを見つけた。扉の陰に隠れるようにして整備員の惨殺死体が転がっていた。驚愕が表情に出ていたのか、部下の数名が釣られて振り返り、悲鳴を上げる。
整備員の死体は胴体を輪切りにされており、上半身が数十センチ這った痕跡が残っていた。その指先は、血でべっとりと汚れた分厚い本を掴んでいた。
「手がかり……か?」
──このような状態で何故本を掴んでいたのだろうか?
随伴していた歩兵の一人が本を手に取った瞬間、僅かに金属音が響いた。訓練中に何度も聞いたことのある、手榴弾の安全ピンを外し、信管が外れた音だ。よりにもよって初歩的なブービートラップに引っ掛かったのだ。
閃光、爆音。熱波と破片の礫の嵐が吹き荒れる。唯でさえ血や脳漿が飛び散っていた資料室は更に滅茶苦茶になった。
だが、死の嵐の渦中にあれども微動だにしない漆黒の巨人がそこに居た。エレナ・ディートリヒ専用にチューンナップされた専用機、シュヴァルツェア・レーゲンだった。瞬時に待機状態から装着に移行したことで、彼女は生き長らえることが出来たのだ。
「ク、クククッ……」
エレナは心底たまらないと言った表情で、こみ上げてくる歓喜の感情を精一杯抑えていた。周囲に居た部下たちは1名即死、2名が死に損ない、残りは呆然とする余裕があるくらいには軽傷に留まっていた。
「手応えがある相手だと良いなぁ……そうだろう、貴様?」
エレナは死に損なった歩哨を拳銃で楽にさせつつ、軽傷のまま呆然としている部隊員に、堪え切れず笑みを向けた。同じ遺伝子で構成されている縁で、自らと同じ顔や体型をしているが、浮かべている表情は真反対だった。片や喜悦、片や恐怖。相反する表情を浮かべた少女は、互いの意図を図りかねていた。
──何故このような軟弱な表情をしている?
──何故このような状況で笑っていられる?
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