第四章
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「江夏、今日も頼むで!」
「勝ってくれや!」
「阪神の為に投げてくれや!」
「頼んだで!」
阪神の黒と黄色の旗を振り命を賭けんばかりに叫んでいる。その彼等を見たのだ。
その彼等の言葉を受けてだ。江夏は何かを感じた。そうしてだった。
彼は投げた。するとそのボールは。
重かった。彼が今まで投げたどのボールよりも。彼はこれまではただ勝ちたい、阪神のエースになりたいと思っていただけだ。しかしだった。
彼等の声を、想いを背負って投げてだ。その時にわかったのだ。エースというものが何か。
それを感じて投げると何かが違った。これまでと全く別だった。
ボールの一球一球に魂を宿らせなければならないとさえ思い投げる。その試合で彼は勝利投手になった。
最後のバッターを三振に取りマウンドに戻るとだ。既に監督、選手兼任でそれになっていた村山にだ。笑みと共にこう言われたのだった。
「わかったみたいやな」
「はい、一塁側から受けました」
「一塁側だけやないやろ」
「外野からも三塁側からも受けました」
「前からもな」
「甲子園は。全部にいてくれてるんですか」
彼等が。いてくれているというのだ。
「お客さんが」
「そしてお客さんの思いがな」
「わしにかかってくるの感じました」
「テレビやラジオもあるで。そやからな」
「重いんですか」
「エースは人の想いを背負って投げるんや」
「そして勝つもんなんですね」
江夏はこのことがわかった。何よりも強く。
そのうえで勝利に沸く甲子園をベンチから見てだ。また言った。
「そやから重いんですね」
「そういうことや。それでな」
「ヒーローインタヴューですね」
「言って来い。それでそのお客さんの声受けて来い」
「わかりました。今から」
村山のその言葉に頷いてからだ。江夏はグラウンドに戻り再び彼等の声を、想いを受けた。彼が真の意味でエースになった時だった。
江夏がエースになった。そして村山は。
選手としても監督としてもユニフォームを脱ぐ時が来た。様々なことが重なりそうなった。
その時にだ。江夏は言われた。その村山に。
「後は任せたで」
「わしにですか」
「そや、甲子園のマウンドにな」
「エースもですか」
「任せたで」
こう言うのだった。
「これからはな」
「わかりました。そやったら」
「御前やったら大丈夫や」
阪神のエースとしてだ。何の問題もないというのだ。
「阪神もお客さんも甲子園もな」
「重みがわかってるからですか」
「そういうこっちゃ。あの重さは感じなわからん」
甲子園のマウンド、そこに立ってだというのである。
「それを感じ
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