幕間の物語:スリーピング・ナイツ
第十九話:目覚め
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た。
今は赤く染まっている真っ白な壁を背に、その男は怪訝な顔をして立っていた。男の容貌は、控えめに見ても美しかった。まるで人形のような顔だち、スラッとした体躯、恐らくはブロンドであろう長髪を支える冠。姿だけ見れば、NPCと間違えていたかもしれない。だがその声音には抑えきれぬ苛立ちが滲んでいて、思わず委縮してしまうほどリアリティが溢れていた。
「貴方は誰?」
そうユメが問いかけると、その男はあからさまに表情を歪めた。声音に宿っていた苛立ちが全身に流れ込んでいく様を、ユメは見た。
「実験体風情が、口の利き方がなってないなぁ」
『実験体』という言葉にユメは槍の柄を握る手に力を込めた。
間違いなく、この男はこの悍ましい実験に関与している。この実験が何らかのプロジェクトなのだとして、この男がどの程度の立場にいるのかは分からないが、情報を聞き出すことはできるだろう。
「そう、答えるつもりはないってこと。なら、ふんじばってでも聞き出すことにする」
きっとレンならそうしただろう。敵を倒して、この事件の真相に辿り着いて、皆を開放するだろう。自分に、そこまでできるとは思わない。けれど、何もせずに諦めてなんていられない。
「あまり調子に乗るなよ、凡人。神たる僕に向かって大きな口を叩いたこと、後悔させてやる」
油断はしない。なにせこの男はすべてが未知数。先程倒したナメクジなど比較にならないだろう。
息を思い切り吸い、後ろ足に力を込めて、地面を蹴る。
「一撃で決める!」
今のところあの男の両手に得物はない。勝機があるのならこの一瞬、武器を取り出す前に仕留める。これまで幾つもの修羅場を潜り抜けてきた愛槍はこの手にある。感覚を研ぎ澄ませ、必殺の一刺を心臓へ――――
「うざったいな」
ドプン、と。まるで水中へ落ちたかのように体が重くなる。それでもなんとか槍を突き立てようと腕を伸ばした刹那、とてつもない重力に思わず膝を折ってしまった。
「うっ…!」
「ありゃりゃ、次のアップデートで導入される予定の魔法だったけど、効果が強すぎたかねぇ?」
『魔法』が存在することを、ユメはこの瞬間知った。得物など、なくても問題はなかったのだ。
そうだ、ここはSAOではない別の世界だ。剣の腕で決まっていたあの世界とは違う。その認識の違いを、ユメは今更ながらに痛感した。
「さて、檻から抜け出す悪いネズミには、しっかりとお仕置きをしなくちゃねぇ」
先ほどまでの苛立ちを孕んだ声とは違う、粘着質な声にユメは身を固くする。なんとか槍を再び握るが、立ち上がることはできない。
「システムコマンド! オブジェクトID≪エクスキャリバー≫をジェネレート!」
魔法で薄暗くなった部屋が、ま
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