幕間の物語:スリーピング・ナイツ
第十九話:目覚め
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はいなかった。タルケンは、恥ずかしそうにしていたが。
「これが、世界樹。ここに、アスナが……」
一行は最終ミーティングを終えてすぐに世界樹の麓まで向かったのだった。
見上げても天辺の見えない巨木に、レンは感嘆の声を漏らした。そして同時に、薄い怒りを募らせて頭上を仰ぐ。
数時間前、総務省の菊岡から聞かされた話はレンの中で燻り続けていた。菊岡の協力依頼には返答まで少し時間をもらったが、レンは今回の世界樹攻略の際に同時に未帰還者の調査も行おうと目論んでいた。
「兄ちゃん?」
そんな兄の異変を感じたのか、意気揚々と前を歩いていたユウキが彼の方へ振り返る。不安そうな顔をする妹に、レンはなんでもないと薄く笑みを返すのだった。
「それで、入口はどこなんだ?」
現在彼らの頭上には世界樹が天高く聳え立っているが、目の前はうんざりするほど長い石畳の階段だ。トレーニングに使うなら最適だが、目的地に向かうためにこれを登らなくてはならないのは少々面倒そうだ。
買い出しの時に下見をしてきたらしい後ろを歩くランに問いかける。
しかし彼女から返事はなかった。
「ラン?」
不思議に思ったレンが振り返ると、ランは顔を俯け自分の掌を眺めていた。
「どうかしたのか?」
「あ、いえ。なんでもありません」
心配そうな表情を浮かべる兄に対し、ランは微笑んでその不安を打ち消そうとした。
「……辛くなったら言うんだぞ」
しかしレンは微笑む彼女の右手が薄く透けているのを見逃さなかった。
レン自身に経験があるように、あれは脳とアミュスフィアの接続が不安定になっている証拠だ。SAO時代、レンもナーヴギアとの接続がうまくいかず、他のプレイヤーに施されていたペインアブゾーバが機能していなかった。
本当なら、今すぐにでもランを休ませてやりたかった。だが、今回の世界樹攻略を誰よりも望んでいるのは彼女で、そして彼女のもしかしたら最後の願いになってしまうかもしれないこの探索を、中止する気にはとてもではないがなれなかった。
「はい。世界樹の入口は、この階段を登り切った先にあります。急ぎましょう」
「ああ」
ランの右手は、今ははっきりとしていた。しかしあれが一時的な接触不良だ、なんて楽観的な勘違いはできそうにもなかった。
「……ままならないものだな」
元気よく、少なくともそう見える足取りで階段を駆け上がっていく義妹の後ろ姿を目で追いながら、レンは吐き出すようにそう言った。
† †
「壮観だな」
階段を登り切ると、そこは央都アルンの最上部であった。巨大な根が寄り集まってできたような世界樹の幹を見上げる。青空はそこにはなく、視界の全てが世界
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