第二章
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後
「ルソー氏のエミールという書だよ」
「ルソー氏のですか」
「そう、ジャン=ジャック=ルソーといってね」
この書を書いた者の名前だった。
「近頃話題の思想家でね」
「そうなのですか」
「うむ、この人の書を読んでいて」
それでというのだ。
「ついつい時間が経つのを忘れていたんだよ」
「左様でしたか」
「そうだったのだよ、全く以て」
カノトは困った顔で使用人にまたこう言った。
「迂闊だったよ」
「確かに。旦那様は常にお時間を正確に守られる方なので」
それこそ時計になっているまでにだ。
「私も驚いています」
「そうだね、明日は散歩をするよ」
窓の外を見て言う、外はもう彼が散歩をする時の日差しではなかった。
「そうするよ」
「左様ですか」
「うん、しかしね」
「しかしですか」
「得られるものは多かったよ」
カントは目を閉じて微笑んで話した。
「よかったよ」
「その書からですか」
「非常に素晴らしいものをね」
こう言ってだ、彼は今は書を閉じた。そして翌日だった。
彼は食事中友人達にそのルソーの書の話をした。
「昨日は話題になっていたね」
「そうそう、君が散歩に出なかった」
「誰もが驚いていたよ」
「病かと言われていたよ」
「急死したという人すらいた」
「皆心配していたよ」
「迷惑をかけたね」
カントはこのことに申し訳なくも思った言った。
「本当に、しかしね」
「しかし?」
「しかしというと」
「昨日読んだ書で多くのものを得たよ」
そのエミールからというのだ。
「実にね」
「そのルソー氏の書からか」
「そこまでのものを得たのかい」
「そう、だからね」
それ故にとだ、カントはさらに言った。
「これからもルソー氏の書は読んでいくよ。ただね」
「散歩はだね」
「それはだね」
「忘れないよ」
カントにしてはいささか珍しく子供っぽい笑みで言った。
「絶対にね」
「さもないとケーニヒスベルグの誰もが心配するからね」
「だからそうすべきだ」
「君の動向は時計にさえなっている」
「その時間は守るべきだ」
「わかっているよ、だからね」
カント自身も言う。
「今日もこれからもね」
「散歩をするんだね」
「そうするんだね」
「そうするよ、絶対にね」
こう言ってカントはこの日からいつも通り散歩をすることになった、そのうえでルソーの著作を読んでいって言うのだった。
「今度は美と崇高の感情に関する観察を読んだよ」
「ルソー氏の著作のだね」
「それを読んだのだね」
「そう、そしてね」
そのうえでとだ、この日も食事中に友人達に話した。
「そこの覚書で多くのものを得たよ」
「これまただね」
「そうなったのだね」
「そこで私は誤
[8]前話 [1]次 最後
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ