第一章
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泰平忍者
戦国の世が終わり久しくなっていた、それは幕府も同じで幕府にいる者は誰もが戦なぞその身では知らないものばかりだった。
それは将軍である徳川吉宗も同じでだ、大柄な身体を正座させそのうえで信長公記を読みつつこんなことを言った。
「さて、この書には神君であられる権現様も出ておられるが」
「はい、よき書ですな」
「しかしだ」
吉宗は傍の者にこうも言った。
「余も誰も戦はな」
「知りませぬな」
「この身ではな」
「書にあるだけです」
吉宗が紀州いや幼少の頃から傍にいた加納久通が応えた、いい感じに枯れた穏やかな外見の男だ。
「最早」
「そうであるな」
「しかしそれはです」
「うむ、泰平が続くからこそ」
吉宗は加納にしっかりとした声で応えた。
「政道が上手くいっているからこそだな」
「喜ばしいことです」
「泰平であればこそ民も安心出来る」
「日々を楽しく過ごせます」
「そうであるな」
「決して悪いことではありませぬ」
「武士も鍛錬はしておるが」
武術のだ、幕府もそこは常に厳しく言い心身を鍛えさせている。
「泰平であればな」
「命を賭けることもなく」
「悪いことではない、しかし」
「しかし?」
「忍の者はどうか」
彼等について話すのだった。
「あの者達は」
「伊賀者や甲賀者ですか」
「あの者達には禄を与えているがな」
「はい、どの者も穏やかに暮らしています、ただ」
「ただ、何だ?」
「これは幕府が召抱えている忍だけではないですが」
加納は吉宗に畏まって話した。
「諸藩が抱えている忍達も」
「泰平であればあの者達も働きようがないな」
「まあ密偵位ですな」
「その仕事はあるな」
「はい、しかし泰平ですと忍の者は特に」
こうした者達はというのだ。
「どうにも」
「暇になるな」
「左様です」
「ではあの者達も密偵の仕事以外は鍛錬をしておるか」
武士達とは違い幕府の表の仕事をすることはない、今の加納の様に。
「そうしておるか」
「いえ、それがです」
「それが?」
「これが面白いことになっていまして」
加納は吉宗にあらたまって話した。
「道場等を開いておりまして」
「忍術の道場をか」
「はい、そしてそこで町人や農民達に忍術を教え」
「暇を潰しておるのか」
「そして教えた教授料も貰っております」
「剣術や柔術の道場の様にか」
「左様です」
その通りだとだ、加納は吉宗に答えた。
「多くの者がそうしております」
「そうなのか」
「どう思われますか」
「別によい」
吉宗は加納に一言で答えた。
「それが忍の者達の暇潰しと糧になるのならな」
「それならですか」
「町人共も楽しんでおるのならな
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