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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
幕間三 伯爵家の政界談義
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 馬堂豊久が大佐へ昇進する辞令と同じように、文官達にとっては戦時下にあっても――否、戦時下だからこそ人事辞令非常に大きな意味を持つ。
 戦時の人事は文官にあっても必要性と横槍、そして妥協の果てに産み出された“異例”の比率が高まっている。
 ――そうした“異例”の一つになったのは良い事なのか悪い事なのか。
弓月家嫡男にして外務省新人官僚である葵はぼんやりと視線をさまよわせた。
アスローンに留学し、外務省に入庁したのは父の意向が強い。もともと五将家の中央政権としての権能を分かち合い、天領の自治の上位組織として振る舞う為に作られた内務省を整備する過程で大きな役割を果たしたのが故州伯爵の家名を継いだ弓月由房である。
自分も本来なら内務省等内治の分野に入り父の地盤を継ぐのだろうと考えていたが、「外務省は視野を広げるにはよかろう」と父が強く勧めた事でこうして入庁した途端に大騒動に巻き込まれている

「父上、そういうわけで転勤です。内地ですけど」

「真かね息子よ」 「真ですよ父上」
 渡された辞令を見て由房は笑みを浮かべた。
「面白い、面白いな。良い経験になるだろう、行ってこい」

「はい、父上。その前に皇都内の政治的なあれこれを今一度整理したいと思いまして」
 動きは把握しているがおおむね伝聞ばかり、一から理解しているとは言い難い。
「よかろう、お前も独り立ちするのならば御国と称するものの中身をもう一度確認しておくべきだな」

「まずはいわゆる駒州派だな。独立独歩、家風は良くも悪くも古風である。駒州の名産はいうまでもないが」

「馬ですよね、それと農産業も盛んなので駒州出身の人は料理にうるさい方が多い」
 一度馬堂家領で歓待を受けた事を思い出す。素朴なようで手の込んだ美食は皇都のそれとは別種の魅力があった。

「あぁ。それになにより龍州と皇都以西を結ぶ流通の利用でそれらの産業を効率的に運用した事によって発展している。
政策は投資による収益を見込んでおり財界に近い、まぁその為に衆民院との伝手と天領の発達に寄与しているから民権運動に開明的だと思われがちだがね」

「実際は?」

「無論、これから先同じようには振る舞えないと分かっているからこそだろう。先を継ぐ者が困らぬ程度に地に足をつけようとしていた。開戦までは」

「開戦後の動きは私でもそこそこは分かります。現状では負け続けとはいえ戦功の大半を独占しています、ウチの義兄上心得と新城少佐が目立っていますからね」
 戦況自体は専門家ではない以上、どちらもあれこれと論評するつもりはない。聞きたければ馬堂の屋敷でも尋ねればよい。

「あぁそれはそれで面倒を引き起こしているのだが、それは後にしよう。次は護州、守原家だ」

「現当主の長康さまが病で臥せているため、
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