第一章
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昔の美食
ヴィットリオ=デル=シリアーニは彼の屋敷でだ、その日の夕食を食べつつこんなことを言った。
「昨日の晩餐だが」
「はい、和食の」
「箸で食べたあれですね」
「あれは実によかったね」
くすんだ金髪を丁寧に整えて濃い緑の目を持っている、細面で少し日に焼けた顔はギリシア彫刻の様である。長身はテニスと水泳でよくl鍛えられている。
「刺身、天麩羅と」
「そして野菜料理に豆腐も」
「そちらもですね」
「満足したよ、ただね」
ヴィットリオはここでこうも言った、見事な部屋で見事な夕食を食べつつ。
「今は少し考えているんだ」
「と、いいますと」
「どの様なお考えでしょうか」
「私がいつも食べているのは古今東西の美食だけれど」
代々門閥貴族の家で今も大地主として牧場やマンションを幾つも持っている資産家だ、その資産を以て日々美食を楽しんでいる。
しかしだ、ここで彼は言うのだった。
「そこをね」
「変えられたい」
「そう言われますか」
「たまにはね、それでだけれど」
彼は家の使用人達にあらためて言った。
「今度古代ローマの食事を食べたい」
「古代ローマですか」
「その時のお料理をですか」
「召し上がられたいのですか」
「そうお考えですか」
「現代の料理でなくね」
まさにというのだ。
「そうしたものを食べたいが」
「そうですか、ではです」
執事のホワン=モナコが応えた。黒い髪とダークブルーの瞳の中肉中背だが俳優の様な立派な顔の持ち主だ。ヴィットリオより一つ年下で彼にとっては執事であると共に頼りになる弟分の様な存在でもある。
「そちらのメニューや食材を調べ」
「そうしてだね」
「用意させて頂きます」
「食事の作法も合わせたい」
そちらもというのだった。
「是非ね」
「それでは」
「うん、そちらもね」
「用意させて頂きます」
「そうしてくれると嬉しいよ」
端整な高音でだ、ヴィットリオは応えた。
「では頼んだよ」
「それでは」
ホワンも応えた、そしてだった。
彼が中心となり古代ローマのメニューが調べられた、当然食材も。ホワンは一通り済ませてからヴィットリオに述べた。
「全てわかりました」
「メニューや食材がだね」
「はい、それではですね」
「頼むよ」
ヴィットリオの返事は一言だった。
「そして楽しみにしているよ」
「それでは」
「さて、どういったものか」
ヴィットリオは微笑んでこうも言った。
「古代ローマのメニューは」
「旦那様もある程度はご存知では」
「うん、確かにね」
ヴィットリオはホワンの言葉を否定せずに返した、自室で家の仕事をしながらそのうえでホワンに対して答えた。
「そう言われるとね」
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