第三章
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その微笑みで西本を見てこう言うのだった。
「チームの為に」
「わしもウクレレを持つ仕草をして頼むな」
「そうしてくれると有り難い」
二人は心で握手をした。それからマニエルは何かあるとこの歌を歌い西本はそれに合わせてウクレレを持つ仕草をしたのだった。
チームメイト達はいつもそんなマニエルと西本達に笑顔にさせてもらった。マニエルはムードの面からも近鉄を盛り上げていた。
マニエルは今はアメリカに戻っている。だが今でもこの歌を時々口ずさむ。そのうえでこう周囲に漏らすのだ。
「日本にはミスター西本がいた」
「マニエルさんが日本にいたチームの監督ですね」
「確かバファローズですね」
「そうだ。いいチームだった」
マニエルはその時のことを思い出しながら語る。
「そしてミスター西本はだ」
「素晴らしい監督だったんですね」
「凄い野球人だったんですね」
「あれだけの人はいなかった」
マニエルは温かい目で西本を今も見ていた。
「合衆国にも他の国にもだ」
「大リーグにもですか」
「いなかったんですか」
「日本と日本の野球人達は幸せだ」
マニエルはこうまで言った。
「あれだけの野球人を見られ共にいられたのだからな」
「そうですね。そしてそのミスター西本と一緒にプレイできたマニエルさんもですね」
「幸せでしたね」
「デッドボールもあった」
顎への直撃だった、それを受けて一時欠場していたこともある。
「だがそれでもミスター西本といられたことは」
「マニエルさんにとって最高の幸せでしたね」
「そうだったんですね」
「そうだ、本当によかった」
これがマニエルの言葉だ。
「俺はあの時を忘れない、近鉄でミスター西本と共にいた時のことを」
こう言って自然とあの歌を口ずさむ。すると。
周りがすぐにウクレレを持つ動作をしてエアギターの要領で伴奏をする。マニエルはその彼等を見て笑顔で言った。
「そうだ、俺の伴奏はこれでいい」
「ですよね。伴奏はこれで」
「ミスター西本がそうしていたんでしたね」
「あの人はいつもそうしてくれた」
マニエルに合わせてそうしてくれたことも忘れてはいない。
「俺はそのことも忘れていない」
「それではですね」
「今もですね」
「俺はこれで歌う。ずっとこの歌を」
マニエルは温かい声でその歌を歌った。マニエルにとってこの歌は何よりも素晴らしい歌だった。西本、そして近鉄との思い出と幸せの歌だからこそ。
およげタイ焼き君 完
2012・10・4
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