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針千本
第一章

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           針千本
 ハリセンボンと聞いてです、宏美はお母さんにこう聞き返しました。
「嘘吐いたら?」
「そう言うでしょ」
「うん、幼稚園で言われたわ」 
 お母さんにこの前実際に言われたことを言いました。
「嘘を言ったらって」
「そう、嘘を言ったらね」
 お母さんも言うのでした。
「それを飲まさせられるのよ」
「ハリセンボンを?」
「このお魚をね」 
 図鑑に載っているそのお魚を見て言うのでした。
「飲まさせられるのよ」
「うわ、凄い外見ね」
 宏美はハリセンボンのその姿を見てまずは驚きました。
「身体のあちこちに針があって」
「だからハリセンボンなのよ」
「本当に針千本あるの?」
「あっ、そう言うだけで」
 お母さんは宏美に正直にお話しました。
「実際はね」
「千本も生えていないの」
「沢山生えているって意味でなの」
「千本なの」
「千本ってのはそうした意味もあるのよ」
「沢山って意味もなのね」
「そうなの」
 こう宏美に教えるのでした。
「それで嘘を吐いたらね」
「ハリセンボンをなのね」
「このお魚を飲まさられるのよ」
「そうなのね」
「そう、だからね」
「嘘を吐いたらいけないのね」
「そうなの、若し嘘を沢山吐いたら」
 その時はといいますと。
「このお魚を飲まさせられるからね」
「わかったわ、私嘘吐かないわ」
 宏美はお母さんに約束しました。
「ハリセンボン飲むわ」
「そうならない為にね」
「うん、嘘吐かないわ」
「そうしてね」
 お母さんは宏美に優しく言いました、そして宏美は幼稚園でクラスの皆にそのハリセンボンのお話をしましたが。
 幼稚園のある子はこんなことを言いました。
「嘘吐いたら閻魔様に舌を抜かれるんだろ」
「ハリセンボンを飲まさせられるんじゃなくて」
「僕お祖父ちゃんにそう言われたぞ」
「閻魔様に?」
「そうだぞ、とても大きなペンチで抜かれるんだ」
 宏美に自分の舌を見せて言います。
「思いきりな」
「うわっ、痛そう」
「ハリセンボンを飲まさせられるんじゃないぞ」
 そこは違うというのです。
「そうじゃないぞ」
「あれっ、そうなの」
「そうだぞ、僕はお祖父ちゃんにそう言われたんだ」
 その子は宏美に強く言います。
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